自分で答えを見つけると「表情」が変わる。 前田 公海子さんインタビュー

前田 公海子さん

ソフトテニス指導者として、7年間中学生の部活動に関わる。技術だけでなく、しつもんメンタルトレーニングなどを取り入れてチーム作りも大切にしてきた。現在は、学研教室内でしつもんを取り入れて一人ひとりが自分と向き合うためのサポートをしている。

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自分で答えを見つけると「表情」が変わる

藤代 いまは、どんな活動をしていますか?

前田 普段は、学研の教室をやっています。

藤代 塾で生徒さんに勉強を教えている?

前田 そうです、そうです。

藤代 もともと、しつもんメンタルトレーニングに興味を持ったきっかけは何だったんですか?

前田 当時は子ども達にテニスの指導をしていたんです。選手を上手にするために、練習方法に重点を置いていたんですが、技術は上がっているのに勝ちにつながらないことが多くありました。もちろん、勝つことだけが全てではないと思うのですが、ただ負け方っていうのもあると思うんですよね。負けたとしても「自分の力を出し切れた」とか、悔いが残らない経験をしてもらいたいなって思っていたんです。本当はもっと力を出せたのに、と終わるのが一番悔しい。

藤代 そこで、何か関わり方とか考え方とかでヒントになればいいなって思っていたのかな?

前田 そうです。そうです。

藤代 実際に学んだり、実践してみて変化はありました?

前田 変化はありました!

藤代 例えば、どんな変化があった?

前田 良い変化もあったし、困惑?もたくさんありました。

藤代 おーなるほど!良い変化はどんなことがありましたか?

前田 良い変化は、私の問いかけが変わったことで、子どもたちにも変化が起きたことです。どうしても、答えを言いたくなっちゃうんですよね。特に試合中とか。「そこに打てば入るよ!」と言いたくなるんです。でも、私が「あそこに打てばポイントとれるでしょ」って言ってしまったら、私にコントロールされてる、命令されて動いただけ。たとえ、そのプレーでポイントがとれたとしても、子どもたちはあまり嬉しそうじゃない。選手自ら「あそこに打とう」と考えて行動した時と、喜び方や表情がまったく違うことに驚きました。試合の途中、ベンチに戻ってきたときに「こうしたほうがいいよ」って答えを言いたかったんですけど、少し我慢をして「相手選手の隙はどこにあると思う?」と問いかけるだけにしたんです。すると、選手はちゃんと見ることができたんです。私自身も「あそこに打てばいいじゃん」って思っていた場所とおなじだった。その時のポイントを取れた表情はとてもイキイキとしていて、私が指示をして打つよりも、何倍も嬉しかったと思うんですよ。

藤代 なるほどなぁ。今までは、相手の弱点などを指示してたんだけど、「相手のどこが空いてると思う?」とか「どこに打てば決まると思う?」という問いかけをして、彼らが自分で考えて、判断するきっかけをつくった。すると、子どもたちの喜び方も違ったってこと?

前田 そうですね。顔の表情が全然ちがいますね。

藤代 おー。その時、自分自身はどう感じたの?

前田 素直に嬉しかったです。

藤代 どうして?

前田 選手たちが、自分で気づいたてくれたからですかね。

藤代 自分で気づいてほしいって思ってたんだ?

前田 んー、たぶんそうだと思います。結果が同じでも、そこに向かうまでのプロセスがとても大事だと思いました。

藤代 なるほどね。自分で気づいてほしかったけど、指示してしまっていたってことだよね。(笑)

前田 そうですね。矛盾が(笑) なんかこう歯がゆい(笑)

藤代 それは、勝てるかもしれないのにっていう歯がゆさかな?

前田 そうそう!!(笑)

 

「対話」で子どもの考えが見えてくる

藤代 他に、良い変化で印象に残っていることはある?

前田 選手選考のことがとても印象に残っています。どのスポーツでも、ポジションの適正とか、コンディションなどを考慮して選手選考をしますよね。3年生の最後の大会、そして最後の試合のことなのですが、団体のメンバーをどうしても選ばないといけない場面がありました。個人戦は全員出場できるんですが、団体戦は限られたメンバーしか出場できない。そして、必ずしも3年生が全員選ばれるわけではないんですよね、やっぱり。

藤代 3年生は引退試合だけど、実力によっては2年生が選ばれることもあると?

前田 そうです。その大会では団体戦の前に、個人戦があったんです。個人戦の結果も最後にグッと伸びる。そこでモチベーションも変わってくるので、個人戦の最終試合を見た上で、メンバー選考しようと他の先生方とも話をしていたんです。

藤代 うん。

前田 最終決定はそこでしよう、って。個人戦、最後の試合で、凄く良い試合をした選手が2人いたんですよ。いままでに、団体メンバーに選出されたことのなかった子なんですけど、最終試合は、誰もが認めるプレー内容だったんです。その2人を団体メンバーに入れれば、たとえ試合に出場できなくても、ベンチにいるだけで戦力になるのでは、という感じだったんです。ですので「あの子たち、すごくいい試合でしたね。団体戦のメンバーは少し考えなきゃいけないんですよね」と先生方と話をしました。ただ、コーチである私と先生が一方的に選考するのではなく、子どもたちにも聞いてみようと思ったんです。そこで、部長たちに相談をしてみました。そもそも部長や副部長あたりは最初から「3年生で戦いたい」って言ってたんです。ですので、子どもたちに聞く前から「試合で良いプレーをした彼らを団体メンバーに入れてください」と答えると思っていたんです。

藤代 その良いプレーしていた子たちも3年生なんだ?

前田 部長達の答えは予想したものと異なっていました。個人戦から団体戦までには少し時間があったので「その後の練習を見て、本当に彼らを団体メンバーに入れるべきか考えて決めたい」って言うんです。

藤代 今、決断せずにもうちょっと様子をみたいと。

前田 そうです。いままでだったら、私と先生で一方的に決めていたと思います。「あの子たち、とっても良い試合をしたから団体メンバーはこれでいくよ」って。でも、部長たちに話しを持ちかけて、彼らの考えや思いを聞けたことは、個人的に成長を感じたし、とても印象に残っています。

藤代 その時の気づきは何でした?

前田 勢いだけで判断せず、周りのメンバーに納得をしてもらえる、応援してもらえるメンバーを選ぼうとしているなって感じました。もちろん、自分たちが最後だから、そんな簡単には決めたくないって気持ちもあったと思うんですよ。

 

「自分で決める」とパフォーマンスが高まる?!

藤代 なるほどなぁ。前田さん自身の気づきは何でした?

前田 自分たちで決めたことですね。

藤代 彼らが、自分たちで決めるってことが大事だなって感じたってこと?

前田 そう感じましたね。最後の大会のペア決めも、大会の3・4カ月前に全員に聞くことにしたんです。過去に、一度もやったことがなかったのですが、選手全員に「誰と組みたい?」って聞いてみたんです。

藤代 おー。今までは、コーチと先生が「あなたとあなたが組みましょう」ってペア決めていたってこと?

前田 そうです。もちろん、よっぽど希望があれば聞きますけど、基本的に問題がなければ、先生と私で相談して決めていました。子どもたち全員に、考えを聞くことはなかったんですよね。

藤代 そしたら?

前田 ほとんどの選手たちは希望通りになったのですが、ペアの相手は1人しか組めないので、望みが叶わない選手もいたんです。ですので、「ちょっと調整させてね」といったん預かったんです。子どもたちも多少の好みはありつつも、自分の技術レベルと照らし合わせて「誰と組むのが相応しいのか」って考えているんです。けれど、どうしても希望どおりにならなかった選手がいました。ところが、結果的には、その子が一番良い試合をしたんですよ。それには、すごく感動しました。

藤代 どうして、良いパフォーマンスができたんだろうね。

前田 ん~なんでだろう。たとえ希望通りにならなくても自分の本心を聞いてもらえたという経緯があるからでしょうか。その上でペアが決まったので、迷いなくプレーに打ち込めたのかもしれません。

藤代 今までは、監督さんと一緒に決めていたものを、ちょっとずつ選手たちに委ねて、一緒に決めるっていう姿勢をとったら成果がでてきたんだ?

前田 ん~そうですね。

 

子どもが自ら学ぶ環境をつくりたい

藤代 いいですね。今後はどんなことをしていきたいですか。

前田 昨年の10月に指導を離れ、いまは指導はしていないので、部活動でしつもんメンタルトレーニングを活かすことはできないですけれど、学研で活かしたいと思っています。いままでは学研教室の中で実施したことはなかったんですけど、少しずつ取り組む中で、子どもが何を考えているのか興味が出てきて、理解もできるようになってきました。

藤代 今までは、スポーツの現場で活かしていたけど、今後は教室のほうで活かしていきたいなって感じ?

前田 そうですね。いまの教室の子どもたちも主体的に学ぶというよりは「やらされてる」という感覚がまだ強いので、子どもたちが自ら学ぶ環境をつくっていけたらいいなと思っています。

藤代 なるほど!では、インタビューはここまでにします。ありがとうございました。

前田 ありがとうございます!