サッカーのおかげで今がある 儀間隼人さんインタビュー

 

儀間隼人さん

沖縄県読谷村在住。「ホームサポートぎま」代表。エコ防水・エコ塗装・エコリフォームなどを請け負う仕事の傍ら、サッカーコーチ歴7年。現在は古堅南FCにおいてコーチをつとめる。自身もローヤルFC40に登録し、現役選手としてプレーを続けている。

 

 

小学1年〜6年を1人で指導するにはどうしたら?

藤代:しつもんメンタルトレーニングについて興味をもったきっかけはなんですか?

儀間:以前、スポーツメンタルトレーニングという講習会がありまして、オンラインで受講していたんです。でも、難しかったり金額が高額だったりという事があって、途中で断念をしてしまって。ですが、メンタルトレーニングは子どもたちも自分も成長できる部分があるなと感じていたので、サカイクや本も読ませて頂きました。メンタルを学べて活用できる場があるなら、チャレンジしてみたいなと思って調べていたら、沖縄で比嘉美樹さんがお話するということで。沖縄にもトレーナーさんがいるというのが安心感にもなって、受講したのがきっかけですね。

藤代:普段はサッカーの指導ですよね?

儀間:はい。そうですね!

藤代:今は何年生を見ているんですか?

儀間:古堅南FC(ふるげんみなみFC)のコーチを3年前からしています。当時は人数が少なくて日頃の練習を見る指導者もいない状態だった。僕は他のチームもみていたんですが、そのチームにいた息子が卒部になり、チームを離れる際にこちらの人数が少ないということで力になれたらいいなと思って、お願いをして見させてもらったんです。その中で日頃の練習を見れるコーチは、まだ僕1人しかいないんですけれど(笑)(注1)試合のときは監督や他のコーチ、保護者の皆さんにも加わっていただいています。

藤代:そうなんですね。すごい!

儀間:最初入ってきた時は15名だったんですが、今は1年生から6年生までで50名ですね。

藤代:えっ!!50名!!

儀間:1人で見てるのでなかなか手が回らない部分もあるんですが、雨の日は練習を休みにするのではなく、将棋をやったりして。その中で、雨の日にメンタルトレーニングも出来たらいいなと思って勉強しています。そうしてチーム全体を見ているんですが、正直アップアップなところもあります(笑)

藤代:1年生から6年生まで一緒にやるということですよね?

儀間:一応カテゴリで分けて、トレーニングは別で考えて、子どもたちに伝えています。1年生から4年生までは4年生のキャプテンを中心に自主的に進めてもらっています。

藤代:すばらしい。少し余談になってしまうのですが、オランダの学校へ視察に行った時に、小学校高学年から中学生くらいの子が縦割りで、学年が違う子どもたちが一緒に授業を受けていたんですよね。個別でやっていることが多いんですけど、学び合いというか、教え合っている姿を見て。僕たちスポーツの世界だと怪我しないように、勝手に区切ることがありますが、たまには年齢の垣根を超えて一緒にやることで学び合えることがあるんじゃないかなと思っていたところです。

儀間:そうですね。特に僕は池上正さん(注2)も凄く好きで、池上さんが沖縄に来てくれた時はお話もさせてもらいました。それを実行するために、1年生から6年生まで月に1回シャッフルして試合をしたり。そうすると、6年生の子が1年生の面倒を見たり教えたりする環境が出来てきたので、今のところ50名いても、そういう面では成功しているのかなとは思いますね。

藤代:なるほど。6年生からは責任感も生まれて、自分たちでやろうという感じ?

儀間:そうですね。確か「ボトムアップ理論」だと思うのですが、1人1人役割を決めてというのを6年生に実践してみたら、責任感もって教えだしたり、少しづつ変わってきてはいますね。

注1:2020年5月現在、コーチは2名増えて3名に。試合に帯同してもらっているが、毎日の練習は儀間さん1人の時が多いという。

注2:池上正
サッカー指導者。NPO法人I.K.O市原アカデミー 理事長
「『蹴る・運ぶ・繋がる』を体系的に学ぶ ジュニアサッカートレーニング」(カンゼン)、「伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法」(小学館)など著書多数。

 

子どもは上級生や大人をよく見ている

藤代:低学年の子どもたちに変化はありますか?本来はコーチがいて、コーチが伝えるということがオーソドックスなやり方だと思うんです。でも、儀間さんのチームの場合は上級生から見て学ぶ場面が多いと思うんです。

儀間:そうですね。下級生はよく上級生を見ていて、口ばっかりの子にはついていかないんですよ(笑)。よく見てるな〜と面白いですね。口にも出して行動もする選手が人気あって、このキャプテンの言うことなら聞く!というのは見えますね。

藤代:へ~(笑)。普段から観察しているんですね。

儀間:必ずしてますね。なので僕も見える範囲だけではなくて、入口やグランドに来た時には挨拶をしてから入るということをやらないと子どもたちは見ている。僕の姿を見て、子どもたちはそれを真似されちゃうので。そのようなことを伝えながらやっていると下級生も見るようになったり。僕に言ってきますね。あの先輩は、こうだからあんまり聞きたくないんだよねとか(笑)

藤代:なるほど(笑)。それで上級生も自分を振り返って、下級生に信頼されるためにはどうしたらいいか考えなおすということですもんね。

儀間:そうですね。どうでもいいと思う選手は直さないですもんね。

 

「横のつながり」があるしつもんメンタルトレーニング

藤代:それは僕たち大人もそうですよね。しっかり見られている(笑)。しつもんメンタルを学んで、実践してみて、変化したことはありますか?

儀間:そうですね。講座の開催は1回目なんですけど、前やっていたメンタルトレーニングよりも実践的で、回数をこなさないと成長しないんだなと。

前やっていたところだと、試験に合格しないと資格を取れなかった。人の心は難しいじゃないですか。伝え方や考え方、自分が思っていることを言葉で伝えなくてはいけないとは思うんですよ。その中で合格・不合格とでてくると、何が結局正解なんだろうと。色々思っていた時に、しつもんメンタルトレーニングに出会って、「どんな答えも正解」というのは一番心に響いてきました。大人もそうですけれど、失敗したらやり直せばいいですし、伝わらなければ伝わるまで繰り返ししていけばいいのかなと思ったのが一番腑に落ちた。面白い仕組みだと思っていますね。

藤代:実際に子供たちにやってみてどうでしたか?

儀間:普段ミーティングはするんですが、カウントダウンゲームをやったときに、めちゃくちゃ真剣になっていた。「こういう風に作戦立てるんだよ」と話し合ったり、皆の意見が違った時にそれを一つにしたり、「合う・合わないはやってみないとわからないしね」ということを伝えながらやってみたら、子どもたちが凄く喜んで。2回3回とやっていった時に、「あ~、この作戦合わなかった〜!」と話していて、面白いなと。実際に考えて、作戦が合った・合わなかったということを自分たちで話してくれたので、そこは響いたのかなと思います。

藤代:日常生活の中で、そういった遊びやゲームの部分からサッカーや勉強に応用できるといいですよね。

儀間:そうですね。凄く間口が広いと感じます。開催する頻度によって自分も成長するだろうし、いろいろな人をみて、子どもたちをもっともっと良い方向に引っ張っていくことができる可能性がしつもんメンタルトレーニングは大きいと思います。キャパが面白いですね。フェイスブックのグループでも、いろいろな報告があるじゃないですか。忘年会開催したりだとか面白くて。メンタルコーチは孤独でもあると思うので、しつもんメンタルはそういった横のつながりもあって、皆のまとまりがあることが面白いです。

藤代:そう言ってもらえると嬉しいです!僕もサッカーコーチだったので、普段会う人は基本的にサッカーコーチだったんですよね。それ自体は全然悪いことではないのですが、どうしても話題が1つになってしまって、新しいアイディアが生まれにくいなと感じたんですよね。

儀間:なるほど。同職だとそうかもしれないですね。

藤代:そうです。例えば、バスケットボール、バレーボール、剣道とかではこんなやり方してるよと聞いたときに、それはサッカーでもできるんじゃないかなと思ったんですよね。このしつもんメンタルトレーニングはスポーツもしくはスポーツの人以外の人も参加してくださっていて、、そういったいろいろ人とつながれることは魅力だと思っています。ぜひそれを皆にも一緒に体験してほしいなと思っているんです。

儀間:そうですね。他の方々の良いところを取り入れることはとてもいい要素なのかなと思います。いま、200名近くでしたっけ?

藤代:いま、350名くらいですね。

儀間:面白いですよね。報告もしながら、刺激になるというか、負けてられないなという気持ちに少しはなりますよね。

 

保護者と一緒にすすめるチームづくり

藤代:儀間さんが日頃の練習を一人でみているというのはほんとに凄いですよね。選手が50人。指導者1人で練習をみるといったらなかなかできないじゃないですか。その時にでてきたアイディアが、子どもたちに少しづつ任せていくというアイディアだったんですか?

儀間:そうですね。どうしても手に負えない。特に、2.3年生はサルみたいに飛び跳ねて言うことを聞かないので(笑)。怪我させないようにするためには、4年生に伝えて。子どもたちも嬉しいんでしょうね。自分たちに任されたということが。面白いですよ。

藤代:任せていくと選手たちも成長していきますか?

儀間:成長していきますね。最初に見ていた1年目よりも、自覚というか、急にではないですがだんだん積み上がってきていますね。サッカーの実績だけではなく、生活態度がもう少し良くなれば成功に近づくのかなと思います。

藤代:儀間さん自身が最初からそのような考えをもってやろうと思っていたんですか?人数が増えてきたらこうしようと。

儀間:ないですね。僕もコーチが入ってくるもんだと思っていたので(笑)。その中で、月に1回保護者を集めて飲み会をしたりして、コーチをやりたいという人が2人でてきたくれたんです。その方々にライセンスをとってもらって、だんだんと増えてくるとは思います。なので、保護者にも考えが広まって協力していただいている感じですね。

藤代:保護者の方たちと関わる上で大切にしていることはありますか?

儀間:子どもたちとあまり変わらないです。選手たちとあまり目線を変えずにフラットに。1つだけお願いしているのは、「練習や試合が終わった後に、お家では子どもたちのことを褒めてくださいね」と言ってます。それ以外はフラットにしてますね。自分がコーチだからというのもないですし、僕の子どももいるので、親としているように保っているつもりです。

藤代:月に1回飲みに行くって、けっこう多いですよね?

儀間:そうですね。保護者会があるので、その後に主要なメンバーと飲みに行くんです。試合で勝てなかった原因などを話して、保護者会長をはじめ、ではそこを中心に皆でやっていきましょうということを話す場でもあるんです。

藤代:小学生の年代は保護者の方の存在がとても重要ですよね。保護者の方といかにチームを作れるか。ですが、若干面倒になってしまうこともあると思うんです。例えば、「子どもたちにサッカーを教えているのに、お父さんお母さんから色々と言われてしまう」と。何のためにやってるんだろうと思ってしまうコーチの方も中にはいて。

儀間:いますね。最初は大変でしたよ(笑) 僕は、試合の前半と後半でメンバーを変えるんですよ。勝ち負けも大事ですし、もちろん勝ちにはいくんですけれど、その中でバランスのいいチームを作りたいと思って。最初は、「勝てないチームはいらない」と親に言われたこともいっぱいあります。「だったらお父さんが監督をやったらいいんじゃないですか」と言ったり。「僕は僕でこういうチーム作りが大事だと思っているので」ということを伝え続けて。勝つチームを作るんだったら集めたらいいだけなので簡単なんです。主力を作ればある程度のところまではいけると思うんですけれど、それをやってしまうと出れない子たちが腐れてしまう。だから「それはやりたくない」と言ったんですよ。それをだんだんと続けていくと、今は他のチームから移籍する子もいて、それで50名とかになっていたりします。

藤代:なるほど。

儀間:だから、試合に出れる環境というのは1番大事なのかなと思っていますね。

藤代:最初からすんなりきたわけではなくて、ちゃんと伝えてきたからこそ、共感してくれる選手たちや保護者の方たちがついてきてくれてる感じなんですね。

儀間:そうですね。最初はボロクソでしたよ(笑)

最初の頃は子どもたちの喧嘩も絶えなかったです。練習中とか陰でやられるとわからないじゃないですか。それで、ケアするためにサッカーノートを始めたり。そこからだんだんちょっとずつ積み上げてきて今があります。まだまだいけるとは思うのですが、1人だと今が精一杯なのかなという気持ちも実際問題あります(笑)

 

サッカーのおかげで今がある。居場所づくりをして恩返しを

藤代:すごいな~。今後は、どんな活動をして、こういうチームにしていきたいという目標はありますか?

儀間:今後はジュニアユースを立ち上げたいですね。

藤代:そうか。卒業する子たちがいるんですね。

儀間:いま、公立の中学校が2校しかなくて、そことクラブチームの3つしか選択肢がない。公立だと顧問の先生が変わると、最悪な年になったりしてしまう。そういったことを見てきているので、今の環境を変えるためにも「第4の選択肢」として作らないといけないのかなということが一番感じていることですね。

藤代:ジュニアユースを作って受け皿を作る。あとはのびのびとサッカーができるように。

儀間:これは、、、僕が高校の時の話に戻るんですが、あまりにも悪さをしすぎてですね(笑)

藤代:えっ!ご自身が?(笑)

儀間:はい。いろいろと自分がやりすぎて落ち込んでいるときに、サッカーの社会人の先輩に出会ったんです。その先輩にはいろいろ助けられて、だからこそ今がある。本当に僕、ダメだったので。サッカーができる環境は先輩たちが作ったものなので、それを後輩がやるために、自分の頭もシフトチェンジしまして。

藤代:なるほど。それは具体的にもう少し聞いてもいいですか?言える範囲でいいのですが、、、(笑)

儀間:父親が野球をしていて、僕は幼稚園の頃から野球をずっとやっていたんです。野球は、例えばワンアウトで一塁に出る。するとそこでバント。それがなぜか面白くなくて。中学生の時に野球推薦をもらって、それで高校に行ったんですけれど、合わなくてグレていたんですよ。学校も無期停学になるくらいまで。

藤代:けっこう荒れていたんですね(笑)

儀間:はい(笑)無期停学になっていたときに、最初に指導させてもらったのが小学生のラジオ体操です。地域の班長のおじさんから、「お前暇なんだったら、朝、サッカー教えてもらえないか?」と言われて。子どもたちは僕がどうして学校に行ってないか、わかってないじゃないですか(笑) ラジオ体操をして、そのあとにサッカーを教えていると、子どもたちがそのまま僕の家に来たりとかして。サッカーのビデオを見せてると「これってめちゃくちゃ楽しいな」という感覚が一時期あったんですね。そこから子どもたちのために、更生というか、「サッカーうまくなってプロを目指してみようかな」という気持ちになって真剣に取り組んだ時期もあります。もちろんなかなか上手くはいかなかったんですが、それで社会人のサッカーチームに収まりまして。その恩返しをするためにやっているという部分はありますね。

藤代:自分自身が居場所を作ってもらえて、より良い自分らしくいられたように、今の子どもたちにもそのような居場所を作っていきたいということなんですね。

儀間:そうですね。それが一番大きいと思います。

藤代:なるほど。めちゃくちゃいい話じゃないですか!!

儀間:でも大変ですけどね、本当に(笑)

藤代:そうですよね。色々と目の前のことをやったり。

儀間:やったら引けなくなっちゃって。

藤代:そうですよね。皆さん期待もされているだろうし。

儀間:そうなんですよね(笑)

藤代:簡単には辞められなくなっちゃたんですね(笑)。でも楽しいですか?

儀間:楽しいです!!めちゃくちゃ楽しいですね。ずっとサッカーをやっていたい気持ちはあるのですが、村の規約や制約があって、夜は練習できないときもある。ナイターが使えないという問題をクリアできればいいのですが、そこは悩んでいる部分ではありますね。

藤代大変なことがありながらも、儀間さんの笑顔がいいですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。

儀間:こちらこそ、ありがとうございました。