認知症予防に「しつもん」を活かしたい 関口 和洋さんインタビュー

 

関口和洋さん(しつもんメンタルトレーニングトレーナー)

群馬県みどり市在住。大間々グリーンモンスターズ(バスケットボールチーム)代表兼コーチ。みどり市スポーツ協会事務局長。
デイサービスで管理者兼生活相談員として働きながら、バスケットボールの裾野の広げ、子どもたちの運動能力向上が出来る環境を作れるよう努めている。高齢者、子ども達に「しつもん」をもっと活用していけたらと考えている。
(一社)スポーツリズムトレーニング協会 認定インストラクター
リズムステップインストラクター

 

「パパはどうしてそんなに怒鳴るの?」

 

藤代:もともとしつもんメンタルトレーニングを知ったきっかけは何でしたか?

関口:仕事とバスケットを教えている他に、スポーツリズムトレーニングのインストラクターをやっています。そのインストラクター仲間の木村尚資さんから「しつもん」の事を聞き、ネットなどで調べて知ったのがきっかけですね。

藤代:興味をもって来てくれた時の背景や課題は覚えてますか?

関口:小学生のバスケットボールチームを作ったのが3年前くらいなんですが、当初は大会にもあんまり出ないで楽しく裾野を広げる活動をしていたんです。去年くらいから子どもたちが大会にも出たいと話すようになって。そうすると練習も厳しくなる。当時小1だった私の子どもに、「何でパパって試合とか練習時に、そんなに怒鳴ってるの?」と言われまして。それがきっかけですね。何か自分の中で、確かに最初と違うな、、、と。バスケットを楽しく教えたいと言っておきながら、多少厳しくなっていたのかなというのがきっかけですね。

藤代:お子さんの言葉をきっかけに、ふと我に返ったというか。そこから色々調べてくれていたんですね。

関口:そうですね。

藤代:その後、学んでみて変化はありましたか?

関口:まずは、何か注意する時に一回自分でのみこんでから注意するようになりました。あとはやはり、しつもんを通して自分たちで考えてもらうということをするようになりました。練習でもそうですし、例えば練習中のゲームをする時にも、自分たちで攻め方・守り方を考えてもらって、あえて私たちコーチは入らずに、任せてみます。試合の後には「反省会」ではなく「ふりかえり」という形で、しつもんをこちらで考えて、プリントを配布してやってもらってます。

藤代:考える重要性は、どうして必要だなと感じたの?

関口:実際にバスケットをやっているのは子どもたちだし、自分のやってきたことを子どもに教えるというのもいいんですけど、結局僕の価値観しか教えられないのかなと思って。逆に子どもたちのほうが、「こんな発想もあるんだ」という発想力がある。それをもっと大事にしたいなと思って、自分たちで考えることは大切だなと感じました。

藤代:やってみて、子どもたちの表情や関わり方に違いは生まれてきましたか?

関口:実際にプレーするときは、「えっ何でそんなプレーするの」と思う時もあるんですけど、試合の後のふりかえりをした時に「ああ、そういう考えを持ってプレーしていたんだ」とわかって、こちらも勉強になるなと。

藤代:こちらから見た、思い込みのプレーにも、彼らには考えがあって、それを知ることが出来ている事ということ?

関口:そうですね。

藤代:ふりかえりのシートにはどんな項目が書いてあるんですか?

関口:「今日の試合どうでしたか?」「今日の試合を10点満点にすると何点?」「どうしてそう思うの?」いま、チームとしてあまり声が出ていないので、「もっと声が出るようにするにはどうしたらいいと思う?」自分たちのチームに足りないと思うところをあえて聞くようにはしていますね。

藤代:なるほど~。そうすると、子供たち考え始めますか?

関口:そうですね。考えますね。そして、次の時までそこを直そうと。なので、チームの成長度はしつもんを始めてから高いかなと思いますね。試合の内容や結果とかも。チームを作ったばかりで素人ばかりということもあるんですけど、去年は1回も勝ってないんですよ。今年は結果的に勝ち越してたり、

去年30点差で負けたチームにレギュラー2人いない状況で3点差で負けたりとか。

藤代:そこまで詰め寄ったんですね。

関口:子どもたちが頑張っているというのはもちろんあるんですけど。

藤代:もちろん、もちろん。

関口:あとは、タイムアウトに言葉をかける言葉が変わってきたかなと思います。

藤代:それはどういう風な言葉から、どんな風に変わりましたか?

関口:前は、注意というか、「もっとこうしたほうがいいよ」「○○しちゃだめ」と。今は、子どもたちのテンションがあがるような言葉かけをするようになって、自分自身も変わったかなと思います。

 

「しつもん作戦会議カード」でバスケットに夢中に

 

 

藤代:具体的に印象に残っているエピソードはありますか?

関口:自分の子どもが小学校2年生で、幼稚園生の頃くらいから遊ばせながらバスケットをやっていました。去年、小学校1年生の時からチームに入って始めたんですけど、親がチームの代表でコーチ、おじさんもコーチなんですよ。もちろん言うことはあんまり聞かないし、やる気もあるんだかないんだかわからない状態でやっていた。

そんな中で、「しつもん作戦会議カード」があるじゃないですか。しつもん作戦会議カードをトランプ形式でやるようになって、子どももゲーム形式でやるから楽しいのか、しつもんに色々答えてくれるようになって。そこからですかね、しつもんをバスケットのことに変えて色々やっていたので、バスケットに興味を持ち始めました。たまたま高学年がいない時に1回だけ試合に出したら、楽しかったこともあったみたいで、そこから意識が変わって、それまで散々ゲームしかやってなかったのに、急にYouTubeでバスケットの動画を見るようになったり、シュート練習したいから30分くらい前に練習に行こうと言われたり。家でシュートやドリブルの練習をうるさいよっていうくらいやるようになりました。「しつもん作戦会議カード」も楽しいみたいで、「バスケに例えてやってよ」と言われますね。

藤代:子どもからせがまれてやるようになったんだ。

関口:身近にいる子どもが、しつもんを通じて変わったかなと思いますね。勉強のほうでも使えるといいんですけど、まだそこまでいってないかな(笑)

藤代:今の話を聞くと、もともとはそこまでバスケットに対して興味がなくて、身内の近い人がコーチ陣だから思うところもあり、そんなに集中力も高いわけでもなかったけれど、今はこっちからやめなさいと言うくらい練習にのめりこんだり、自分でやっていると。彼に聞いてみないとわからないけれど、今振り返ってみると何が良かったと思いますか?

関口:接し方、声かけかなと思うんですよ。自分の子どもだから、もちろん人の子どもよりも厳しく言わなきゃという気持ちもあって。少し強い口調で言っているなという思いはあったので、こちらがしつもんを通して声かけを変えていって、自分で考える時間を作ったという部分が大きいのかなと思っています。自分でYouTubeで見たことを体育館でやるわけですよ。もちろん2年生ですしまだ出来ないわけですよ。そこはあえて何も言わずに、「今のいいじゃん」と励ましながらやらせてみたり。そうすると子どもも、だんだん気持ちが乗ってくる。今は、「こういうのもあるよ」と言うと、それを練習したりもしてますね。父親としても面白いなと思っています。

藤代:我が子にはやっぱり厳しくしちゃうものなんですか?しなきゃいけないと思っている?

関口:勝手な想像かもしれないですが、他の子よりも厳しくしないと申し訳ないかなと思ってます。

藤代:どうしてですかね。でも、皆さんそうおっしゃいますよね。

関口:例えば今後、自分の子どもが大きくなって試合に出るようになったとして、同じくらいの力の子がいたら、他の子出さないとうまくないのかなと(笑) 。自分の子どもだから出してるのって思われるのも嫌ですし(笑)

藤代:そっかぁ。でも、お子さんからすると、今まで人一倍怒られていたのが怒られなくなってきて、自分を認めてもらえるようになって、楽しくなってきたのかな?

関口:そうですね。たまに少し言ってしまいますけど(笑)

藤代:もちろん、もちろん(笑) バスケットで実践できたから、それを勉強でも応用できそうですけどね。まあ、まだ2年生ですもんね。

自分自身にも変化があったとおっしゃていましたが、どんなことがきっかけで変化があったと思いますか?たとえば、しつもんメンタルトレーニングのこういう考え方が参考になったとかあります?

関口:10カ条の中の「コントロールしない」は印象的でした。自分の「こういうチームになってほしいな」という思いはあるのですが、やっぱり子どもたちの意見を尊重しながら、やっていきたいなと思ったのがきっかけかもしれませんね。自分が考えているバスケットを押し付けるのではなくて、子どもたちの思いを大切にしながらやっていきたいなと。とはいえ試合をするようになって、「試合に勝ちたい」という選手もいるので、子どもの意見を全て取り入れるわけにはいきませんが。基本は楽しく長くバスケットを続けていけるようなチームや環境にしていきたいなというのはありますね。

藤代:そこに思い立ったきっかけは何かあったんですか?それは、やっぱり子どもから「なんでそんなに怒鳴ってるの?」っていうところからですか?

関口:そうですね。どんなスポーツもそうだと思うんですけれど、コーチ陣の言葉遣いが凄く問題視されている中で、子どもに言われたときに、「それって良くないよな」と思ったことがきっかけかもしれないですね。かと言って、それが全部変わったかというと微妙なところではあるんですけれど、前より意識して話するようになったのかな。それをもっと自然に出せるようになればいいのかなと思います。

 

認知症予防に「しつもん」を活かしたい

 

藤代:いいですね。お仕事でも活かす場面はありますか?

関口:いま、どういう形で取り入れようかなという気持ちはあります。この間のトレーナー講習会に行ったときも、色々とお話を聞く中で、自分の中で2つあって。しつもんカードのお年寄りバージョンとか。ポストカードが良かったので認知症予防とかにいいなと思うんです。それを今後どのような形にするか取り入れていこうと思っているところです。

藤代:お年寄りの認知症予防という観点だとどういう要素があるといいの?

関口:「考える」という機会がやはり少なくなってきているんじゃないかなと思っています。ましてや、だんだんと物忘れなどがある中で、あまり新しい事を考えたり、昔の事を思い出したりはしてなくて。昔は「回想法」と言って、昔の鍋を見てどう思いますかという質問があったりして、そういうことが認知症予防になるんだなと。

藤代:なるほどね。それこそ、お年寄りの皆さんはたくさんの経験をしてきた。それをお互いインタビュー出来たら面白そうだよね。

関口:お年寄りの方は長生きしていろいろな経験をしていると思うので、逆にそういった話を引き出して聞くことで、こちらも勉強になるんじゃないかなと。

藤代:たしかに!!例えば、人生の中で感動した事、苦しかった事、どうやって乗り越えてきたか、過去の自分に何か伝えられるとしたら何を伝えたいか。そういうことを聞けたら、僕たちも楽しいよね。

関口:早い段階で取り入れたいなと思っているんだけど、なかなか出来ていないですね。でも、それはいいなあと思うんですよ。

 

言葉に隠れている子どもたちの「思い」に気づく

藤代:面白いな~。その他に学んだ後で実践していることは何かありますか?

関口:チームでワークブックをやってみたんですよ。これは、ふじしーに相談でもあるんですが(笑)チームの子で、WISHリストの中に「誰かが人に刺されているところを見てみたい」と書いてある子がいて。ん?ちょっとこれは…と思って本人に聞いてみたら、「自分では出来ないから、誰かがしているところを見てみたい」と答えたんですよ。そこで安心はしたんですけど。ワークブックを使ったことによって、普段なかなか聞き出せない、子どもたちが思っていることをわかるなと。すみません。答えが嚙み合っていないないかもしれないですね。

藤代:そんなことないです。僕たちのしつもんメンタルトレーニングのルールは「答えはすべて正解」。だから、法律に反するような事を書く子もいるんです。

もう少し簡単な言い方にすると、過去に「悪魔になりたい」という子もいたんです。どんな答えも正解なので、「悪魔いいね」とまずは言うじゃないですか、いきなり「悪魔ダメだよ」と言うのではなくてね。「じゃあ、悪魔になったら何をしたいの?」と聞いたら「自分が思い通りの世の中を作りたい」と言ったんですよ。

「じゃあ、思い通りの世の中ってどんな世の中なの」と聞くと、「みんなが平等な世の中です」と。その子は少し頭髪にも特徴があり、それだけで「お前ちゃんとしろ」とよく言われる。だから、見た目とかで判断されない平等な世の中を作りたいと。それが、彼の中では「悪魔になりたい」という表現なんですよね。

最近あるお母さんから聞いたのですが、小学4年生の娘さんが『世界なんて終わってしまって、みんな死んでいなくなればいい』と物騒なことをいうのでびっくりしたそうです。

普段は優しい子なのにと思って、その方は「みんないなくなったらどうなるの?」と聞いていった。女の子は「自分も死ぬ」「天国に行く」と…。「天国に行ったらどうなるの?」と聞いたら、返ってきた答えは「ババに会える。会いたい」。「ババ」はお母さんのお母さん、つまりおばあちゃんのことだそうで、亡くなって、初めてその子は親しかった人のお葬式に出た。「みんな死んでいなくなればいい」という言葉の裏には「おばあちゃんに会いたい」という気持ちがあったんだと気づいて、そのお母さんは泣いてしまったというんです。

だから、「人を刺すところを見てみたい」という表現の背景にはもっと違う世界があるのだと思います。すぐには難しいけれど、丁寧に、その背景にはどんな思いとか考えがあるんだろうかと寄り添う。ただ純粋に好奇心があるだけなのか、何か自分の中にある違った自分を表現しているだけなのか。でもそれを聞いてくれる人がなかなかいない。ジャッジされちゃうからね、すぐに。もちろんジャッジしなくちゃいけない時もあるんだけどね。

 

自分で考えて書くことが、母国語力にもつながる

関口:なるほど。あとは、しつもんカードを練習時にいきなり使ったりするんですよ。6年生ちょっと来て〜と。そこに興味を示して、集まってきたりするんですよね。「何やってるの?私も引きたい」と。その答えを言ってもらうという事を練習中やったりしてます。男子も女子も関わっているんですけれど、やはり文章は女子のほうがしっかりしているなという印象はありますね。お父さん・お母さんへの感謝の言葉というのも女子のほうがしっかり出てきますね。男子は短い文章で。うちのチームだけかもしれないですが、、、(笑)

藤代:書く力はトレーニングされていくものだと思っていて。

関口:たしかに。試合をする度にふりかえりをやっていく中で、本当に短い一言の文章だったのが、1行・2行になったりと変わっていくので、読んでいても凄く面白い。

藤代:成長を感じますね。

関口:今までは子どもたちからもらって、自分だけで共有していたものを、今後は、父母の方にも渡して、こういう風に考えているんですよというのを共有できたらいいなと今思っているところですね。そうしたら、父母の方にも子どもの成長が伝わるかなと。

藤代:たしかに。前にサッカーノートを書いてもらった子どもが、最初何も書いてくれなくて、1年半くらい書いてくれなったの。わからないばっかり。わからないも正解だから、わからないでもいいよ、と。「でも、何か書いてくれたら嬉しいな」とこちらからは言うんだけど、書いてくれない。

でも、2年くらいたったら書き始めたんだよね。それが、何かきっかけがあったのかどうかはわからないんだけど。その子の家庭は、お父さんとお母さんのすれ違いが多くて、なかなか家庭状況が安定しない中でサッカーに来てくれていた。だから、自分の事よりもそっちのほうに意識があったのかなと、今思えばそう感じる。それが落ち着いた頃に、凄く書くようになってくれて。そのサッカーノートに書いた内容をお母さんに話すようになったりして、「サッカーが楽しくなった」と言っていたことが凄く印象に残ってる。

最初は書けなかったり、キーワードだけだったりしたものが文章になっていくということもたくさんあるし、後は、考えることは基本は母国語で考えるじゃないですか。僕たちだったら日本語で考えますよね。日本語力・国語力を高めることが思考力を高めることに繋がると僕は思っているんですよ。だから、考えて書く、言語化するということと、その言語化したものを誰かに伝えてみる。そうすると色んなフィードバックが返ってきますよね。相手の表情だったり、どうしてそう思うの?とかだったり。それを繰り返しやっていくことで、国語力が高まっていくんじゃないかなと思っていて。これは、スポーツだけに限らず、社会人になっても必要とされる人になってほしいなと思って、あえて「書く」ことをいれているんです。

関口:そうですね、書いた方がいいですよね。もう少しうまく、バスケットノートみたいに出来るといいんですけどね。プリント1枚じゃなくて。

藤代:なくしたり、ぐちゃぐちゃになったりしますもんね。

関口:この間も、「なくしたのでもう1枚ください」と言われましたもんね(笑)。

藤代:作りましょう!今後はどんなことをしていきたいですか?

関口:バスケットを教える中で、自分たちで考えてより良いチームにしていくこと。子どもたちが、ずっとバスケットを楽しい気持ちで続けられるような環境を作っていくということ。あとは、認知症予防という意味でも、ご高齢の方々に、しつもんを通じてアプローチしていけたらなと思うんです。あとは、自分自身がしつもんを通して成長できたらなと思っています。

藤代:今日はありがとうございました。

関口:ありがとうございました。