「自分はどうしたいのか? 立ち止まる重要性」二田水 晶さんインタビュー

二田水 晶さん(ゼルバサッカースクールコーチ)
1981年4月2日生まれ。神奈川出身。2015年にレアルマドリードファンデーションサッカースクールの沖縄校立ち上げのため沖縄へ移住。その後、2017年よりゼルバサッカースクールを立ち上げる ▶ホームページはこちら

 

海外経験で気づいた「質問」の大切さ

 

藤代 いまはどんなお仕事をされていますか?

  幼稚園から中学生のサッカースクールをしていて、メインは小学生を対象に指導をしています。

藤代 沖縄でサッカースクールを経営されているんですね。いま、人数はどれくらいいるんですか?

  もうすぐおかけ様で130人位になります。

藤代 すごい!130人!何年くらいやってるんですか?

  3年目ですね。

藤代 3年目で130人ってすごいですよね?

  うーん、初年度は140人の子どもたちが来てくれていたんです。去年は120から130人くらいで推移していました。この6月(インタビューは2019年6月)の段階でこんなに来たのは初めてなんですよね。なんでかな。

藤代 すごい!どうしたらそんなにたくさんの人が来てくれるんですか?

  基本的には、口コミがメインです。最近では少しづつ「ネットみました!」という方も増えてきてはいて。特に意識していたわけではないんですが、サッカースクール以外での活動としてFC琉球のお手伝いをしています。会場準備を親子一緒にボランティアスタッフをして、そこからみんなで試合観戦をしているんです。そうすることで、サッカー選手の舞台裏を知れ、プレーする以外の部分にも目を向けられる。スポーツを「する」「みる」「支える」を通して人生をより素晴らしいものにして欲しいというのがコンセプトにあります。ですので、しつもんメンタルトレーニング以外の講師をお呼びしたり、スクールとして参加をしたり、時には他のスポーツを経験できる時間も設けています。また、雨の日は屋内でメンタルトレーニング、栄養、心理学、戦術などの座学、またはドイツのボール遊び体育と言えるバルシューレなども取り入れています。そうした活動をSNS などを見て、スクールを知ってくれる人も増えてきていますね。

藤代 おー、様々な活動を通じて、スクールに興味を持ってくれてるんですね?

  まあ、そんな感じです(笑)

藤代 紹介して下さる方は何が良いと言って下さるんですか?

  何ですかねえ…何が良いんでしょ(笑)

藤代 何か良いと思わないと、大切な友人に紹介しないですよね?

  う~ん…たしかに。声としては「丁寧に教えてくれる」といったものが多いかもしれません。一方で「厳しく教えてくれる」といった声も(笑)

藤代 (笑)大切なことはときには厳しく言うことも大事ですもんね。

  うん…どうなのかな(笑)厳しくしているつもりもないんだけど(笑)

藤代 (笑)「子ども自身が楽しそうにしているから」というのは以前にお話を伺ったときには感じましたけどね。その中でしつもんメンタルトレーニングに興味を持ったきっかけは何だったんですか?

  沖縄で活動しているトレーナーの比嘉美樹さんに会ったことがきっかけだったと思います。ひとつは、子どもの接し方について、もうちょっと色々な考えを聞いて、もう一回見直したいなと思っていたんです。もうひとつは、スクールでも「アクティブラーニング」を取り入れながら指導することを大前提にしているんですが、その点で、もう少し引き出しを増やしたいな思っていたんですよね。

藤代 なるほど。アクティブラーニングについての必要性はどんな時に感じたのですか?

  僕自身、ドイツの学校で学んだことが大きかったと思います。ドイツ語や他言語を学ぶ際に「ドイツ語をドイツ語で学ぶ」とか「スペイン語をスペイン語で学ぶ」んですが、先生が僕たちにどんどん考えさせるんです。先生はアルファベットの読み方も怪しい生徒たちを相手に教えている。それなのに生徒たちは、気づいたら3カ月くらいで日常会話レベルを話せてしまうくらいに上達していくんです。

藤代 すごい!

  そんな経験をしたので「これは日本の授業と全然違うなぁ」と実感したんですよね。

藤代 なるほど、なるほど。

  他にも、レアルマドリードのサッカースクールでスペイン人のコーチが来た時もおなじような感覚を得ました。アクティブラーニングといった言い方はしなかったんですが、「考えること」と「サッカーのプレー」をリンクさせる。教え込むだけ、ティーチング一辺倒ではない指導方法を目の当たりにして「聞き方って大事だな」「質問の仕方って大事だな」と繋がっていった感じですね。

藤代 なるほどー。ドイツ留学の経験や、スペインのコーチの方や指導者の方の影響を受けたんですね。

  日本に帰ってきて19歳から指導をはじめたんです。多くの大学の授業はずっと先生は黒板を見ながら進行しているじゃないですか。それを見たときに「もっと会話が大事なんじゃないの?」「僕たちもあなたから学びたいし、あなたも僕たちから感じることが何かあるんじゃないですか?」と感じたんです(笑)大学でもそうだし、自分も指導者を目指しはじめたので、余計に敏感になっていたかもしれません。それらもあって「日本の在り方」ってどうなのかな?と考えることが多くなりましたね。。

藤代 確かに、確かに。一方的に伝えるだけだったら、動画や映像だけでも事足りてしまうかもしれないね。

  その頃の動画はまだ微妙な時代ですけどね(笑)

 

「自分はどうしたいのか?」立ち止まる重要性

藤代 実践してみて、何か変化はありましたか?

  すべて実践できているかというと難しいところはあります。僕はどうしても感情が出てしまうことも多くあって(笑)でも、感情が沸き起こったときに、立ち返ることができている実感はあります。「自分はどんな指導をしたいのか?」と自分の基盤に立ち戻ることができています。また藤代さんや比嘉さんや講習会に改めて自分が参加することで、また新しい気づきが生まれたり。その繰り返しだと思っています。

藤代 うん。うん。うん。

  自分を客観視できるようになった感じですね。

藤代 なるほど。「どんなスクールにしたいか?」とか「どういう指導者でありたいか?」といった問いに、立ち止まって考えるきっかけを作れてるんですね。

  そうですね。自分が目指したい指導に何度も立ち返り、実践する中で、子どもたちも積極的に考えて行動する子がどんどん増えてきてるかな。

藤代 小さい頃、サッカーの指導を受けたときからこうした考え方を持っていたんですか?

  いや、当時は「教わる」って思っていたから「コーチが教えてくれる」というスタンスでした。

藤代 なるほど、コーチは教えてくれる人。

  正解を求めていたかな。「これって間違ってないよね?」「これでいいんだよね?」と。当時のコーチも気づいたことに対して、ほめてくれてたと思うんです。でも、自分で気づくことのすばらしさや良さということはなかったかな。

藤代 今の子どもたちも「答えを知りたい」という子は多くないですか?

  多いと思います。そこがちょっと難しくて、ときには教えることも大切。サッカーもある程度、原理原則だったり外郭や枠組みがある。「教えること」と「教えないこと」のバランスはとても大切ですね。

藤代 そうですよね。よく「引き出す」という表現を使いますが、引き出せるものがない状態では引き出すことはできないですもんね。一方で、子どもたちが「サッカーを教えてくれる」と思ってサッカースクールに来てくれることが多いと思うんですが、そんな中「自分で考えよう」となると子どもたち困ったりしない?取り組んでくれる?

  「ここからここまではサッカーとしてちゃんと考えてやらなきゃいけない部分ではあるけどやり方は自分次第だよ」という言い方を最近はしています。

藤代 なるほど、なるほど。面白い。

  そこが言語化の難しいところかな。その理解の差と、後はサッカーの知識として最低ラインを理解すること、そして動けるだけの運動能力も大事になってくる。

 

スクールを支える「小さなアシスタントたち」

藤代 年齢によって身体の発達も違うし、個人差もあるから一括りにはできないですよね。なるほどなぁ。子どもたち関わっていて、面白かったことや変化を感じたことは何かありますか?

  いままでは「10人中1人しか気づけなかったこと」をしつもんメンタルトレーニングの考え方を取り入れて実践することで、10人中2人、3人くらいの子どもたちが自発的に動けるようになった感覚がある。そうした子がいると、まわりもまた影響を受けて、良い循環がまわっていく感じがあるんですね。練習でも、ひとつ目のトレーニングが終わった時に「もうこれいらないよね?」とマーカーコーンを持ってきてくれる選手がいたり、「こっちに動かした方がいいよね。」と自分たちでボールを集めはじめたり。いままでは、ある種「お客さん」のような感覚でスクールにくる子どもが多かったのですが、自分にできることを探してくれる子どもが増えてきました。

藤代 おー、なるほど。

  3年生くらいに特にそうした子は増えてきていて。そういう子は、まだ運動能力的に高くなかったり、もしくは技術的に差があったとしても、モチベーションがすこぶる高い。なのでどんどんヒントを紡いで、自分で考えて成長していく。二年もあると、他の子をごぼう抜きしたりします。やる気があって考えられる頭が何より大切だと感じています。

藤代 へえ、面白い!

  ここに「考える力の大切さ」をとても感じます。

藤代 僕も以前にスクールのコーチをやっていたので、なんとなく覚えていることがあります。「これ片付けてくれる?」と子どもたちにお願いすればもちろんやってくれるけど、お願いしないとやってくれない(笑)子どもたちだって、休憩時間でお水飲みたいし、遊びたいし。次の練習をイメージして「自分にできることを探す」という発想には中々ならないですよね。

  そうですね。スクールに通ってくれている子どもたちは「とにかくサッカーやりたい!」という感じがすごいあるんです。それが相乗効果を発揮しているのかな。地域のチームに所属していない子どもたちもいますし、チームに所属している子もいます。チームに所属してないから、といってお遊び感覚かというと逆で、とてもモチベーションが高い子が多いんです。FC琉球の試合を観戦したことを機に「もっと上手くなりたい」という感覚もすごい上がってきて。こちらも驚くくらいにモチベーションが高いんですよね。集合も早いし、次あれやろう、これやろうと考えて行動する。初めてスクールに参加してくれた子どもにも彼らが声をかけて入りやすい雰囲気をつくってくれるんです。

藤代 おー!それは助かりますね!

  「小さなアシスタント」みたいになっています(笑)藤代さんも会ってますね!この間の講習会に来ていた子たちです。

藤代 あー!あのの子たち!

  そうですそうです。

目指すところを明確にすると「ストレス」が減る

藤代 サッカー好きなんだなぁ。いいなぁ。お父さん、お母さんや保護者との関りは変化したことありますか?

  僕のスクールでやりたいことを藤代さんや比嘉さんが別の形で言語化してくれたり、違う形でアプローチしてくれることで「あ、いいよね!」と共感が生まれている気がします。

藤代 お父さんお母さんと「目指している方向性」が近いとストレスは少なくてすみますよね。

  そうですよね。そういう保護者の方が多くなってきてくれています。例えば「こんなイベントやりますよ」とお伝えした際に、以前は20人中の10人はいつも来てくれる人、残りの10人は初めての人といった感じ。何回も来てくれる人は少なかったんです。でも、最近はリピーター率があがってきて「スクールの取り組み」を応援してくれる感覚をすごく感じています。色んなチャレンジをしやすくなったというか。

藤代 確かに、確かに。そうなると企画も作りやすいですよね。

  共感してくれる人が増えてきている感覚はとてもありますね。

藤代 サッカースクールを経営する中で人数を増やしたいという思いはありますよね。でも、そのために色んな人に声をかけると、色んな目的の人が集まって運営が難しくなることがある。でも、晶さんのように「目指したいところ」があり、保護者の方との関係性を大事にしながら作り上げていくと、本当に来てほしいお客様が集まってくれますよね。もちろん色んなトラブルはあるけれど、ストレスが少なくてすむのかなと聞いて感じました。

  そうですね。5・6年生や中学生くらいで来てくれた子たちの中には「なじめる子」と「なじめない子」の違いがとてもはっきりしますね。「どうしたらいいと思う?」と問いかけても「はあ?」と考えることを拒否する子も多かったり(笑)

藤代 (笑)そういうときはどうするんですか?

  体験に来てくれた段階ではっきりしてるんです。技術的にはとても優れているけれど「考えること」や「挑戦すること」「まわりと協力すること」が足りていない。でも、本人は「もっと技術を高めたい」と思ってきてくれる場合には「じゃあしょうがないかな」と入会をお断りすることもあります。

藤代 考える必要性はドイツや南米に行ったときに感じることが多かったのですか?

  そうですね。第一に言葉がわからないのにチームに入るので、考えざるを得ないですよね。練習でも、列の一番後ろで様子を見てやってみるのに、それでも「お前ちげーよ!」と怒られたり。「あ、違うのか」と困惑するわけです(笑)

藤代 言葉が分からないから考えるしかなかった(笑)

  考えてたのか、入り口の部分なんでそこは難しいですけど。

藤代 欧州は特に「自立」を大切にしている傾向があるじゃないですか?もちろん政策もあるでしょうし、様々な背景がある。考えることの重要性は日本でもますます高まる可能性もあるかもしれませんね。今後はどんなことをしていきたいですか?

  今後ですか?まずは優秀なナンバー2を早く探さなきゃ(笑)サッカースクール自体は良い感じに認知してもらえています。その上で、3~5歳のバルシューレ(ボール遊び運動教室)の活動やお父さん、お母さんたちのウォーキングサッカーとかも広げていきたいですね。

藤代 うん、うん。

  どの世代でも、みんながサッカーを楽しめる環境をつくりたいです。あとはFC琉球を含め、地域貢献をしていけたらいいな。もちろん、競技をわけずに、多様なスポーツの人が交わる機会もつくりたい。

藤代 それはどうしてですか?

  運動の偏りが大きいと感じてるんです。チームに所属している選手たちも「サッカーばかりやりすぎじゃないか?」と疑問に思うこともあるんですよね。サッカーばかりだと中学、高校と行ったときに伸びないんじゃないかなって思って。

藤代 バーンアウト(燃え尽き症候群)してしまうと。

  心も体も余裕と伸びしろがなくなってしまう。

藤代 最初は楽しくやり始めたのに「やらなきゃ、やらなきゃ」という焦りが出てきちゃうと辛いですもんね。今回はインタビューありがとうございました。

  ありがとうございました。

 

 

 

 

ABOUTこの記事をかいた人

藤代 圭一

一般社団法人スポーツリレーションシップ協会代表理事。 しつもんメンタルトレーニング主宰。   「教える」のではなく「問いかける」ことでやる気を引き出し、 考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。 全国優勝チームなど様々なジャンルのメンタルコーチをつとめる。   著書に 「スポーツメンタルコーチに学ぶ『子どものやる気を引き出す7つのしつもん』(旬報社)" 「サッカー大好きな子どもが勉強も好きになる本」(G.B.)「惜しい子育て」(G.B.)「『しつもん』で夢中をつくる! 子どもの人生を変える好奇心の育て方(旬報社)」がある。