佐野雅恵さん(しつもんメンタルトレーニングトレーナー)
高校教員として6年間勤務。その間、アーチェリー競技U17日本代表スタッフの下で指導法を学び、監督として全国大会に出場する選手を支えた。テクニックに加えチームワークやメンタル面を強化すべく、しつもんメンタルトレーニングを学び始める。現在は新潟県を中心にチームサポート・写真撮影などでしつもんを使い、一人ひとりが輝くための活動を行なっている。 ▶facebookはこちら
しつもんで「成長のスピード」が加速する

藤代 しつもんメンタルトレーニングを知ったきっかけは何でしたっけ?
佐野 きっかけは、高校教員をしていた当時、少し指導で悩んでいて、新潟県に藤代さんが講演に来てくれたことです。
藤代 あー(笑)
佐野 忘れてました(笑)? 「子どものやる気を引き出すしつもんメンタルとレーニング」という講演タイトルに跳びつきました。
藤代 なるほど。講演に来てくれたんだよね。そのとき印象に残っていることはある?
佐野 んー。覚えていることしかないんだけど、体験から入る知識の吸収力は素晴らしいなと感じました。
藤代 というと?
佐野 学校教育で良くあるのは「言ったでしょ?」みたいに伝えて終わっていた気になっていたことが多かったの。でもそれだけでは相手に伝わらないと、頭で理解していても、効果的な伝え方が分からなかった。でも、講座では身体を動かすアクティビティやしつもんを使って、体感して、聞いて、また考えるサイクルで組み立てられていて、藤代さんが伝えたいことが、受講者の私達に伝わりやすい内容になっていると感じました。
藤代 なるほどね。体験した後で言葉にして伝えてもらうと、腑に落ちやすいと感じたんだね。
佐野 はい。
藤代 なるほど。確かに講座が終わった後に沢山、質問されたのは覚えているなぁ(笑)
佐野 すごい勢いで質問しました(笑)
藤代 どんな質問だったか良く覚えてないけど、沢山しつもんされたのは覚えている(笑)
佐野 覚えてないんですか~(笑)わたしはすごく覚えてますよ。
藤代 本当?
佐野 藤代さんにはその時「勝ちたいのは誰ですか?」と言われました。
藤代 そうだったっけ?どんな質問したの?
佐野 「チームをどうしたら勝たせることができますか?」といった趣旨の質問を沢山しました。
藤代 あぁそっか。それで、メンタルトレーニング的なテクニックを教えて欲しいっていう内容だったよね。
佐野 そうそう。勝つためのテクニックを教えてくださいって言ったら、藤代さんに「勝ちたいのは誰ですか?」ってしつもんされて。
藤代 (笑)
佐野 私は「選手です」と答えを出したんだけど、その後しばらくその問いかけが頭から離れなかったんです。あーそうか。私が勝ちたかっただけで、選手たちの本当の気持ちは違っていいたのかもしれないと、選手の本当の気持ちが分からないことに気づかされました(笑)
藤代 なるほど(笑)
佐野 懐かしいですね。
藤代 実際に、講演会や質問を通じて感じてたことを、選手たちに試してみたの?
佐野 うん。次の日から、講座の内容を実践して「私が何を感じているか」でなく「選手たちが何を感じているか」を意識して練習しました。また、私はアーチェリーの顧問でしたが、個人競技は「チームワークの大切さ」を教えづらくて困っていました。だけど、どうしても教えたかった。しつもんメンタルトレーニングの答えをシェアする時間を持つことで、さらに仲間意識が強くなって、部活中に部員同士で相談する姿や、笑顔が増えました。
藤代 選手の競技力をあげることを考えたら、直接的に選手同士の関わり合いはそんなに必要ではないと子どもたちも感じていた。けれど、アクティビティやワークをすることによって変化があったんだね。競技力の変化はどうだった?
佐野 競技力の変化も出ましたね。
藤代 おー。
佐野 アーチェリーは感覚を大切にする競技なので、細かい動作はなかなか伝わらない傾向にあって、選手側のセンスや洞察力を問われることが多かったです。より伝えやすくするために、イメージすることを混ぜて説明していましたが、選手によってはそのイメージが合わないこともあるんですよね。
藤代 言語化しにくい所もあるってことだよね。
佐野 そうなんです。だけど困ったときに選手同士で相談して、イメージを借りてやってみて、また自分の感覚と照らし合わせて改善していく。以前は分からないままになっていたのが、選手たち同士が相談できる環境になったことによって成長のスピードが速くなりました。
藤代 なるほどね。今までは指導者の経験談でしか伝えられなかったけど、相談できる環境になることで、多くの人の感覚から自分に合う感覚を選べるようになったんだね。
佐野 はい。そうです。
藤代 へー!いいね。なるほどね。
高校生が「講演会を主催」180名が参加

藤代 そういえばさ、選手たちと僕の講演会を主催してくれたことがあったよね。
その話を改めて聞きたいなと思っていて。
佐野 ありましたね。
藤代 きっかけは何だったんだっけ??
佐野 子どもたちの夢をサポートする事業が新潟県燕市で行われていて、アーチェリー部に声をかけていただきました。子どもたちに「何をしたい?」と聞いてみたら「スポーツに関係する方の講演会をやりたい」ということになり。何人かピックアップした中で、藤代さんに会いたいと意見がまとまって、お願いすることにしたんです。そのあとに、選手たちが市にプレゼンテーションをして採用されたんです。
藤代 おー!結構、大変だよね。
佐野 結構、大変でしたね。
藤代 そうだよね。お金を頂くためのプレゼンテーションなんて、子どもたちもあまり体験したことがないことだよね。
佐野 そうですね。あと集客目標が大きかったのでより大変でした(笑)でもプレゼンテーション・ポスター作り・配布・集客など、学校生活では取り組んでいないことに向き合った中で、いままでは引っ込み思案だった子が「得意分野だからやりたい」と率先して行動してくれたり、リーダーシップを発揮してくれて、いつもとは違った一面を見れたことは、本当に素晴らしい機会でした。
藤代 なるほどねー!当日は何人来てくれたんだっけ?
佐野 180人です。
藤代 180人!すごいなー。黒板にとってもあたたかみのあるメッセージを書いて迎えてくれたのを覚えています。

佐野 控室のセッティングをお願いした子たちに「何が書いてあったら藤代先生は喜ぶかな?」と聞いたら。、藤代さんの本「スポーツメンタルコーチに学ぶ!子どものやる気を引き出す7つのしつもん」の表紙を書きたいって言うんです。一所懸命に書いてくれました。
藤代 うれしいね。市にプレゼンテーションをして、多くのお客様が来て、多くの体験ができたと思うんだけど、彼らが自分たちでプロデュースしてみて、どんな感想を持ったんだろう。その時のことはなにか選手たちに聞いたことはある?
佐野 振り返りでは「自分たちで決めたことが実現して楽しかった」という声がありましたね。当日はいろんなスポーツジャンルの方に来ていただいて、年齢も10歳~70代まで幅広かったんだよね。ワークを通じたシェアでは「普段は聞けない内容も多くて新鮮だった」って言ってたかな。
不安を駆り立てる「結果」を巡るジレンマ

藤代 なるほどなー!しつもんメンタルトレーニングに出会う前と出会った後では、自分自身の変化はありましたか?
佐野 待てるようになりました(笑)
藤代 待てる?何を待つの?
佐野 彼らが「考えて行動に移すまでの間」というんですかね。
藤代 その前はどうしていたの?
佐野 以前は、練習時間が勿体ないので、速く行動してほしいと考えていたので、私が指示を出したら、選手たちが考える間を待ってあげられませんでした。実行に移すまで待つことによって「考える力」と「相談する力」がついたと思います。以前の私は「効率」が最重要だったのが、子どもたち同士で相談して、思考錯誤する姿を見ていくうちに、「仲間と協力しあえる環境をつくりたかったんだ」と感じました。そして、そのプロセスに慣れてくると、考えて行動するまでの時間は短くなって、結果的に練習効率が良くなったんです。
藤代 おー!なるほどね。県でも全国的にも結果を期待される子どもたちもいたわけでしょ?ジレンマみたいなのはあった?
佐野 ジレンマしかなかったですねー(笑)
藤代 どんなことに葛藤していたの?
佐野 私は「成長すること」や「勝つこと」が大切だと考えていたんです。でも、アーチェリーは個人競技なので、県大会に出場すると、部員の中には一位の選手ももいれば最下位の選手もいる。
藤代 県内の学校の位置づけ的にも結果を求められていたんだよね。
佐野 そうですね。けれど、勝つことももちろん大切ですが、私がその姿勢や価値観を重視しすぎると「努力しても勝てない選手を否定しているんじゃないか?」と感じてしまって。でも、勝たなければならない、といった葛藤はすごくありました。
藤代 なるほどなぁ。いまの話を聞いて思い出したけど、僕もある一時期に感じていた違和感があったなぁ。たとえば、学習塾ってね「○○大学合格」とか張り出すじゃない?塾のマーケティングのために張り出していることはもちろん理解しているのけれど「張り出されなかった子は価値がない」みたいな感じで受け取られないかなという思いがあったんだよね。それとなんか近い所があるかもね。
佐野 うん。まさに藤代さんのその体験と同じ感覚だと思う。そんなことないって思ってはいても、心の中では結果を追っていたので、そのときは自分が半分に割れるような感覚がすごくありました。
藤代 うん、うん。ジレンマを抱えた中で、意識したこととか大切にしたことは何があった?
佐野 ジレンマを感じていた時は、指導者としての壁を感じていた時期でした。そのときにしつもんメンタルトレーニングに出会ったんです。私に必要なものが全て入っているメソッドだと感じたので、そこにコミットしようと。その瞬間、ジレンマは捨てました(笑)
「監督だからこそできること」は何か?

藤代 指導者としての壁は何だったの?
佐野 勝ち負けに対する価値観のジレンマがひとつ。あと、うちの部は毎年全国大会に出場していましたが、そこで選手が実力を発揮できずに自滅するパターンが頻発していたんです。
藤代 思った結果がでないと。
佐野 そうです。でもいま考えれば当然だと思います。
藤代 ん?どうして?
佐野 全国大会で選手の方が監督より緊張しているのは当然だと思うんです。でも、選手を見守って、緊張をほぐし、サポートするために、監督として私が同行しているのに、それが全然できなかったんです。
藤代 さらに緊張させてたの(笑)?
佐野 そうそう。さらに緊張させちゃったり(笑)試合で負けて泣いてる選手たちに、今までの努力を賞賛して、前を向かせてあげるでもなく。一緒に悔しがって泣いてしまったりして(笑)
藤代 でも、それで嬉しい人もいるんじゃない(笑)?
佐野 どうなんですかね(笑)?私はそんな自分が嫌でした。友達だってできることを私がする必要がない。監督として成長したいと強く感じました。
藤代 あーなるほどね。実際に変化はあった?
佐野 はい。すごくありましたよ。しつもんメンタルトレーニングを実践することで「どんなサポートをしていきたいのか?」といった問いの答えが明確になったこと。そして、選手たちが「自分だけが上手くなればいい」という考え方から「みんなで上手くなりたい」という方に変化していきました。選手たちのやる気を引き出すことで新しい世界が見えました。しつもんメンタルトレーニングを取り入れてよかったと心から思います。本当にありがとうございます。
藤代 こちらこそ。今後はどんな活動をしていくの?
佐野 今後はですね。スポーツチームのメンタルコーチとして呼んで頂いているので、選手・監督・保護者の方のサポートをしていきます。あとは、感情をともなった体験が人間の成長を促すきっかけとなることを学びました。その感情の奥にあるニーズを知り、感情に振り回されるのではなく、味方にするためのラジオを専門家と共に配信していきます。
藤代 おー、いいですね!ありがとうございました。
佐野 ありがとうございました。