堤 剣吾さん(スキーインストラクター)
旅とスキーを愛し、北海道移住の夢を実現する。より良いスポーツ指導をしたいと考える中で、しつもんメンタルトレーニングと出会い、スキーレッスンに応用。子どもたちだけでなく、大人からも大きな反響を得る。現在はしつもんメンタルトレーニングの講座を北海道各地で実施。 ▶facebookアカウントはこちら
WHYをHOWに変えただけで、変化が起きる
藤代 いまはどんな活動(お仕事)がメインですか?
堤 スキーのインストラクターとして活動しています。お仕事の多くは、高校生の修学旅行です。高校生たちにスキーを教えることが12月1月2月のシーズンはとても多いですね。シーズン的に12月1月2月は修学旅行がメイン。12月〜4月の空いている日はは一般の方々を教える。でも、場所にも左右されることがあります。色々なスキー場でお仕事をしているんですが、北海道の中でも、ルスツや富良野のエリアだと高校の修学旅行生。札幌国際スキー場などでは、一般の方々や海外からの旅行者を対象に教えることが多いですね。僕は江別スキー連盟に所属していまして、そこでは子ども達のクラスを担当したり、大人の方にもスキーを教えています。
藤代 へぇ。すごい!しつもんメンタルトレーニングにはどうやって出会ってくれたんですか?
堤 僕自身、高校までは野球をやっていたんです。その時は選手だったので、教わる側でしたが、スキーを指導することによって「教える立場」になった時にどうしたらいいか迷った時期がありました。自分の経験してきたことを伝えるだけでなく、押しつけてしまうことがある。でも、僕自身は子どもたちに信頼してもらえたり、憧れてもらえるような人になりたかったんです。過去に、信頼できる、あこがれる顧問の先生に出会えなかったことも理由のひとつかもしれません。
藤代 なるほど、なるほど。
堤 「この人みたいになりたい」と思える人が周りにあまりいなかったんです。また、指導していてよく耳にするのが、良い選手だったにも関わらず、指導者と合わなくてそのスポーツを辞めちゃったり、指導者の方に潰されてしまう選手たちもいる。はじめたスポーツを楽しみながら成長するためには、どのように伝えたらいいのかなと感じていました。そこで、コーチングを学び、コーチングとスポーツをどのように結びつけようかなと思っていたときに、メルマガで藤代さんのしつもんメンタルトレーニングに出会ったんです。
藤代 なるほど。スキーのインストラクターという活動で活かしてみて、変化はありました?
堤 いままでは、僕が指示することが多かったんです。「こんなふうに滑ってきて」と。でも、できてこなかった子どもには「ちゃんと言ったでしょ。なんでできないの?」と伝えていたんですよね(笑)その結果、子どもたちのやる気は著しく低下していたと、いまならわかります。
藤代 (笑)
堤 いま振り返るとけっこう言っていたかな。
藤代 「なんで言ったととおり滑れないんだ?」と。(笑)
堤 そうですね。「ちゃんと説明したじゃん、聞いてたの?」という感じです。けれど、しつもんメンタルトレーニングを学ぶようになってから、思うように滑れなかった子どもと出逢っても、「伝え方が悪かったのかな」と自分を振り返るようになってきて。例えば「こういうふうにやってきてね」と説明してうまくできなかったら、「どのようにすれば、しっかり伝わるだろう?」と考えるようになって、怒る回数が減ってきました。僕の中では、イライラしたり、「なんでできないんだ?!」と怒ることが少なくなってきたことが大きいですね。いままでは会社でも「なんで?」と人を問い詰めることが多かったように思います。けれど、尋問(WHY)と効果的な質問(HOW)の違いを知り、いまは「どうすれば?」という思考に変化してきていることを感じます。
「無理」をやめると「誰でも2日間」で滑れるようになる
藤代 なるほどねー。スキーインストラクターとして関わる子どもたちは、みんな「上達したい」という子でしょ?
堤 そうですね。
藤代 みんな限られた時間の中で上手くなりたいだろうけど、そんな中でも効果はありましたか?
堤 効果ありますよ。僕は、レッスンの前に「目標設定シート」を子どもたちとやっているんです。感想を聞くと「練習の目標が明確になってよかった」と答える子も多いんですし、実際に集中力も高まっていると感じています。また、修学旅行生の場合だと、スキーをできる期間は2日間位なんです。午前と午後の2時間ずつ、長いところでも1日5時間程度。短い時間の中で「単純に滑る」だけではもったいないと思うので最初にゴール設定する質問をします。「2日間が終わったときにどうなっていたら最高ですか?」と問いかけるんです。その答えをみんなでシェアしてからレッスンにのぞむ。すると、やはり表情が変化するんですよね。あとは、「無理」や「できない」という言葉を言ったら罰金だよ、と伝えています(笑)
藤代 冗談でね(笑)
堤 そうですね。みんな「無理」「できない」と無意識にに言葉にする子が多いんです。使ってはいけないことを意識してはじめて、「自分はこんなに無理って使っているんだ」とレッスン中に気づいた子もいます。
藤代 おもしろい!
堤 どんな子でも、2日間で滑れるようになるので。
藤代 みんな2日間でも滑れるようになるんだ!
堤 なりますよ。2日間のゴールを決めた後は「目標を実現するためには、どうすればいいのか?」と考える時間をつくります。すると、「コーチの話をしっかり聞く」といった言葉が子どもから出てきて、実際にしっかり話を聞いてくれる。そして、それを実際に行動してくれたときには褒めることも大切かと思います。それを繰り返していくと成果として出てるかなと思います。
藤代 スキーの技術だけでなく、大切なことを学べる場所になっているんだね。スキーをやったことない子どもたちが最初に滑ると基本的に転ぶでしょ?そこで、自然と「もう無理だよ」「できないよ」と口にする。でもつっつー(堤さんのニックネーム)は「無理」「できない」という言葉を言わないようにしようと決めてレッスンをはじめる。すると、2日後にはみんな滑れるようになるわけですね。なるほどなぁ。これは普段の生活でもおなじで、もしかしたら僕たちは、本当は簡単にできるはずのことでも「できない」と言っているかもしれないですね。
堤 そうですね。
藤代 すごいよね。
堤 2日間のレッスンが終わると最後に「お別れのあいさつ」をするんです。そこで「スキーをやったことがなくて、最初は難しいと思っていたかもしれない。でも、最後は自分の力で上から滑れたでしょ?この成長はすごいことだし、みんなやればできる。でも、一方的に無理だと決めつけていればできなかったかもしれない。自分の可能性を狭く見積もらないこと。社会に出てもこの2日間のスキーの体験を思い出してもらえるたら嬉しいし、みんなの可能性はたくさんあるんだよ」と伝えてお別れしています。
藤代 すごいなぁ。この経験によって、自分に自信を持てた子どもたちも沢山いるんじゃないかな?
堤 その後どうなったかは僕には分からないので(笑)
藤代 そうかそうか、関われないもんね(笑)
堤 でも、気づきを得て、帰ってくれる子どもはとても多くなったと感じています。
藤代 イメージするだけでジーンとくるものがあるね。
堤 そう言ってもらえると嬉しいです。これは僕が学んだもの、資産だと思っています。関わった子どもたちに社会に出た後の可能性を広げることのお手伝いになっていたら嬉しいです。
必要のない子どもはいない
藤代 なるほどー。指導の中で他に印象に残っているものはありますか?
堤 しつもんメンタルトレーニングとは関係ないかもしれませんが、スキーのレッスン前に、学校の方から「担当する子どもたちの中で気をつけてほしい子がいます」と伝えられたことがあったんです。どんな子か聞くと、脊髄か何かの癌を患っている子でこの先が長くないらしく、転ぶと危険だということでした。中学生のときも修学旅行に行かなかったし、普段、体育も参加していない子だったんです。でも、子ども自身が「たとえ転んでもいいから、やりたいことを大切にしたい」と言っていたんです。
藤代 スキーをやりたい、と。
堤 僕は非常勤スタッフなので、本来であれば、常勤の人たちが担当するのですが、いろんな事情が重なって。
藤代 普段ヘルプで入ってる堤さんにその子との出会いがあったんだ。
堤 はい。話を聞いてから、子どもが転ばないように重点的にサポートしようと思っていました。けれど、困ったことに、僕の班に「学校一、運動が苦手な子」もいたんです(笑)
藤代 え(笑)
堤 運動が苦手なので、その子はすぐ転んでしまう。結果的に、病気を患っている子よりもサポートが必要だったんです。多くの時間を運動の子に使っていました。けれど、それが結果的に良かったんです。最終日に、恐る恐る「どうだった?」と聞くと、笑顔で「楽しかった!」と答えてくれたんです。もしかしたら、つきっきりでケアをしなかったことが、良かったのかもしれません。
藤代 つきっきりになっていたら、もしかしたらその子は楽しめなかったかもしれないということだよね?
堤 そうです。
藤代 これはぼくの推測だけど、普段すごくケアしてもらってサポートしてもらっていると感じていたとしたら、のびのびと自分でチャレンジできたことが、楽しかったのかもしれないね。
堤 そうかもしれないですね。
藤代 そういう意味では、「学校一、運動が苦手な子」がいてくれたおかげで、彼女は自分の時間を楽しめたのかもしれないね。
堤 本当にそうだと思います。
長いスパンで、子どもの伴走者でありたい
藤代 なるほどなぁ。すごい話だ。ぼくは物事は必然のタイミングで起こると思ってるんです。今回も、そうだったかもしれないね。活動をしていて、楽しいと思えるのはどんな時ですか?
堤 変化が見えたときですかね。しつもんメンタルトレーニングの講座を通じて、いままで自分の癖や考え方に気づき、「より良い自分になりたい」と変化が見えたときが楽しいです。スキーインストラクターももちろんやりがいを感じていて、終わった時にみなさんが笑顔でいてくれることに充実感を感じます。
藤代 やってよかったなぁと?
堤 そう。モヤモヤが晴れたり、前向きな気持ちになっている人たちの笑顔を見ると、ああよかったなぁという感じになりますね。
藤代 いいですね。
堤 (笑)
藤代 今後はどんなことをしていきたいですか?
堤 今後は1つのチームに長く関わることができたらいいと思っています。修学旅行だと2日間、一般や子ども達のクラスでも、長くても2ヶ月くらいの期間でしか関わることができないので。たとえば、サッカーのクラブだったら、長いスパンで関わり合うことができますが、僕は、長い関わりを持てなる機会が少ないと感じています。ですので、チームで取り入れてもらえるようになってサポートとして関われたらなぁと、今後の目標として考えています。
藤代 いいですね。確かに2日間でも、充実した気持ちになれるなら、もっと長い期間関わりたいなという考えが自然と生まれそうだよね。
堤 そうですね。
藤代 ぜひやって欲しいです。ありがとうございました!
堤 ありがとうございました!