行動でジャッジせず、子どもの「心を観る」山科佳子さんインタビュー

山科佳子さん(県立高校非常勤講師)

県立高校で非常勤講師を務める一方で、自宅で音楽教室を主宰。平成22年度には北九州芸術文化振興財団響ホール音楽アウトリーチ事業の登録アーティストに選出され、市内の小学校や市民センターでアウトリーチ活動に参加。

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「自分の答え」に子どもを導こうとする罠

藤代 いまはどんな活動やお仕事をしていますか?

山科 週に18時間、高校で音楽を教えているのと、自宅でピアノと歌のレッスンをしています。

藤代 もともと「しつもんメンタルトレーニング」に興味を持ったきっかけは何だったんですか?

山科 中学生の子どもがいるのですが、「魔の2歳がずっと続いている感じ」で、彼のやる気スイッチを探し回っていたんです。スイッチになかなか辿りつかない中で「子どものやる気を引き出す7つのしつもん」の本に出会って「あっこれだ!」って!!facebookで何度も目にしたこともあり、私に必要なんだと思いました(笑)

藤代 なるほど(笑)本の中で印象に残っていることは何か覚えてますか?

山科 最初は「難しそうだな」と感じたんです。私も授業中に生徒に質問しているけれど、うまくいかないことも多かったんです。生徒の考える力を磨くような質問を投げかけられていないというか。授業が脱線することも怖いので、あえて質問しないということもありました。。

藤代 あーなるほどね。

山科 当時は「生徒をコントロールしたい」と思っていました。しつもんメンタルトレーニングの10カ条を学ぶ前だったので「自分の中にある答えに生徒を導くこと」にはまるような質問を探していましたね。

藤代 たしかに、それはよくわかるなぁ。質問すると、話が脱線してしまうこともよくある。あっちいったり、こっちにいったり。それが学びを促進する側面もあるけれど、その反面、タイムマネジメントがうまくいかなくなっちゃうんですよね。

山科 まさにそれですね(笑)

藤代 だからあえて質問しなかったんですね。

山科 本を読んだけど「やっぱり自分でしつもんするのは難しいな」と思って。どこかでふじしーに会いたいなと思ってはいました。そんな時に、福岡にも講演があったんですよ

藤代 そうそう。福岡にも行きました。

山科 その時は、自分の行く気力がなかったんですよ。でも、その後に映像でしつもんベーシック講座を受講しました。でもでも「やっぱり映像じゃダメだ!」と感じて、この間の3月に東京まで行きました(笑)

藤代 ありがとうございます!!(笑)

山科 行って本当に良かったと思いました。

藤代 何が良かったですか?

山科 実物に会えたこと(笑)それに、たくさんの仲間ができたことも良かったし、背景が異なる方々の意見や考えが聞けて、それを受け入れられる自分に気づくことができて、とても良かったなと思います。

 

答えは「わからないも正解」で、力みがとれた

 

藤代 実際に学んで、しつもんするようになったの?

山科 なりました!!(笑)

藤代 その結果、変化はありましたか?

山科 最初は我が子に活用したいと思ってたんです。でも、子どもが中学3年生だからか、しつもんをすると結構スルーされます(笑)サッ~~と逃げられるんです。

藤代 思春期だしね(笑)

山科 「しつもんきたな!」みたいな感じで、寝たふりされたりとか(笑)学校の送り迎えの車内で「今日はどうだった?」とか「どうすれば良いと思う?」とか言っても基本的には寝たふりされます(笑)でも、子どもに対する声掛けの仕方がしつもんメンタルトレーニングを勉強してからは変わったかなと思います。

藤代 以前は車内でどんなことを話していたの?

山科 「あれもできてない!」「これもできてない!」「なんでやらないの!」と学校から家につくまで、ずっと言い続けていました(笑)

藤代 そうすると子どもはどんな反応だった?

山科 「知らない!」「聞かない!」「何もしゃべらない」といった具合で、全然良くない、負のサイクルの中にはまっているような感じでしたね。

藤代 それと比べると何か違いはある?

山科 もちろんです。本人はいま受験生なんです。中高一貫校なので、本来は受験をしなくていいけれど「外の学校を受験したい」と言い出したんです。その中で私も「あそこができてない」「ここができていない!」とか批判ばかりするのではなく、「今回ここができたのはどうして?」とか「どうしてうまくいったの?」と頭ごなしに「ダメだ!」と言うのではなく、彼が前向きな気持ちになれるような伝え方や関係を大切にしています。

藤代 なるほどなぁ。その関係は以前と比べて、自分にとって心地いい?

山科 もちろんです!もう全然違う。子どもと一緒にいたいって、学校にも行かせたくないくらい(笑)

藤代 前はどうだったの(笑)?

山科 前は、一緒にいる時間が苦痛だったんですよ(笑)

藤代 えー!そうなんだ。だから車の中でも言うんだ。

山科 そうそう(笑)だけど今は、たまに寝たふりするけれど、話をすれば何か考えようとしてくれているのもよく分かるし、「わからないも正解」というしつもんメンタルトレーニングの考え方は私にとってとても大きかったかなと思います。言葉として答えがでなくても、彼の頭の中では、少し考える時間が生まれている気がします。

 

子どもが「自分で気づくきっかけ」をつくる

 

藤代 学校の音楽の授業とかピアノの教室で何か変化はありましたか?

山科 生徒に中学校2年生の女の子がいるんですが、レッスンの最初に「1年後どうなっていたら最高だと思う?」「今日のレッスンの終わりにはどうなっていたいい?」「そのために、いま、できることは何がありそう?」とスタートするようにしました。するとその子は「ピアノのこと」だけではなく「自分の生活面のこと」も伝えてくれるようになったんです。「試験勉強の邪魔になるから、YouTubeやメールの機能を携帯から消す」と。そうやって自分自身で生活面の課題を試行錯誤して取り組む姿を見て微笑ましく感じています。彼女は本当に音楽が大好きなのですが、しつもんをするようになってから、ピアノだけでなく、勉強面・生活面でも、グンと成果が出てきているんです。

藤代 以前だったら「音楽とか生活面に邪魔だから、YouTubeは消しなさい」って言いがちだったけれども、本人から言ってくれるようになったてこと?

山科 そうですね!私は一言も消しなさいとは言ってないんですけれども、自分の将来のことを考えて、それを行動に移せた彼女は凄いなって。

藤代 たしかに!習慣や自分を変えるって簡単なことじゃないもんね。

山科 まわりの女の子たちはもちろんYouTubeを見ているし、話題にあがるけれど、「自分は将来、どうなりたいだろう?」と考えたときに、その時間が少しもったいないと感じたのかもしれません。わが子よりも生徒たちの方が、どんどん成長していってくれています(笑)

 

行動でジャッジせず、子どもの「心を観る」

 

山科 今年から、授業にもしつもんメンタルトレーニングを取り入れてるんです。ワークブックを用意して、「この1年が終わった時に、どんな自分になっていたら最高ですか?」ってしつもんをしたんです。1年生に場面緘黙(ばめんかんもく)と呼ばれる疾患を抱えている子がいて、授業中は何も喋ることができないんです。
家などではごく普通に話すことができるのですが、学校のような「特定の状況」では話すことができないので、先生を呼びたくても、職員室の前でずっと待っているんです。その子がしつもんに対して「1年後はみんなとコミュニケーションがとれるようになっていたい」って書いていたんです。音楽の教科書でプリントを隠して、誰にも見せたくないと言うので「いいよ。考えたことに意味があるから、お友達の話を聞いてね」と伝えました。授業はそれで終わりましたが、彼の答えを見たときに私は感動をしたんです!言葉に出しては伝えられないけれど、彼の思いをワークを通じて引き出すことができる。表現できる。しつもんって凄いと。

藤代 すごいなー。

山科 「あなたのゴールは何ですか?」というしつもんだったら書けなかったんじゃないかなって思うんです。「どんな自分になっていたら最高ですか?」というしつもんには答えてくれるんです。

藤代 このしつもんには答えてくれたんだ。

山科 そう!!それを見たときに凄いって思ったんですよね。先週は歌のテストの前に「テストが終わった後に、どうなっていたら最高ですか?」と問いかけると、彼は「大きな声で歌えていたら最高」って書いていたんですよね。

藤代 そっかぁ。彼は「しゃべらない」のではなくて「しゃべれない」んだよね。それを理解できたんだ。

山科 そうなんです。だから、凄く子どもたちを観察するようにもなりました。
講座の中でも「目の前の人を知らないと、良いしつもんはできない」という言葉が、凄く腑に落ちました。一人ひとりをしっかりとみて、相手を知ることで良いしつもんができるんだなって。

藤代 なんか、まだまだありそうですねっ!!

山科 これくらいです(笑)結局、彼は歌の試験で声を出せなかったんです。だけど、彼の思いに触れることができてとても良かった。

藤代 緊張するよね。慣れている人でも緊張するよね。

山科 きっとそうだと思います。

藤代 ぼくは基本的に嫌だっ(笑)

山科 嫌でしょ(笑)嫌な先生だなって自分でもわかっているですけどねっ(笑)
発表するのは校歌なんです。校歌は学校の生徒しか歌えないので、入学した証として、皆の前で校歌を歌うことをテストにしています。なので、一人ひとりみんなの前で歌うのだけれど、結局、彼は歌うことはできなかったけれど、すぐに打ち切るのではなく「他の生徒とおなじ時間を過ごすことを大切にしたい」と私は思っていたんです。彼が歌の練習の時には口を開けていることを知っていたので「口あけるだけでいいから、校歌を全部言ってみよう」って伝えました。他の生徒と同じ時間を過ごせたことは凄いと思ったし、私自身が人を見れるようになった効果がここに繋がったのかなと感じましたね、凄く感動でした。

藤代 たしかになぁ。生徒をコントロールしたかったり、タイムマネジメントだけを考えたら、彼の存在はとても気がかりで「なんで喋んないんだ」「どうしたら歌わせられるだろう」と考えちゃうもんね。でも、批判するんじゃなくて「本当に、どうしてなんだろうか?」と観察したり、ワークシートを活用して彼の考えを聞いてみると、彼は彼なりに頑張っていて、その過程が見えたってことだもんね。

山科 そうですね。なので、本当に凄いなぁと感じたんです。めちゃくちゃ感動してました。めがねシートも書籍にあるような形ではなく、別の方法で答えを導き出していました。W(ダブリュー)みたいな形で、大きくはみでる形で、ものの数秒で!

藤代 凄いっ!!

山科 凄いでしょ!!感激してました。

藤代 コミュニケーションという部分では、みんなと一緒にできないけど、彼にしかできないことがたくさんありだね。

山科 そうですね。私もスクールカウンセラーの先生も同じように思っています。

藤代 今後は、どんなことをしていきたいですか?

山科 今後は、このしつもんメンタルトレーニングの素晴らしさを、たくさんの人に伝えたいなと思っています。なので、ふじしーに福岡に来てほしいなって思っています。

藤代 福岡行きますよ(笑)

山科 どうすれば、もっと多くの方に知ってもらえるんだろう?と試行錯誤しています。子どもたちにも活用したいですね。でも、子どもが変わっても私たち親が変わらないと、どこかで歪みが出ると思うので、やっぱり大人に伝えていきたいかな。大人が変われば、子どもも変わりますしね。私はいつも学校の現場にいるので、先生に「しつもんメンタルトレーニング」をぜひとも学んでもらいたいなっって思っています。そこかな。学校の先生が学ぶことで彼らをコントロールもせずに導くことができると思うし、生徒たちがもっとイキイキ、伸び伸びと自分の未来を信じて、進んでいけるんじゃないかなって私は思ううんです。最終的にはそこにいきたいなって思います。このしつもんメンタルトレーニングを広めていける人になりたいなって思います。

藤代 いいですね!!インタビューはここまで。ありがとうございます!

山科 ありがとうございます!

 

 

ABOUTこの記事をかいた人

藤代 圭一

一般社団法人スポーツリレーションシップ協会代表理事。 しつもんメンタルトレーニング主宰。   「教える」のではなく「問いかける」ことでやる気を引き出し、 考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。 全国優勝チームなど様々なジャンルのメンタルコーチをつとめる。   著書に 「スポーツメンタルコーチに学ぶ『子どものやる気を引き出す7つのしつもん』(旬報社)" 「サッカー大好きな子どもが勉強も好きになる本」(G.B.)「惜しい子育て」(G.B.)「『しつもん』で夢中をつくる! 子どもの人生を変える好奇心の育て方(旬報社)」がある。