昔ながらの指導をやめて、子どもたちの笑顔が増える指導へ  川島敏明さんインタビュー

 

川島敏明さん

しつもんメンタルトレーニングワークブック・アクティビティインストラクター。
中学からバレーボールを始め、指導歴は30年以上。現在はジュニアバレーボールチーム「太子堂VC」の監督を務めている。

 

「こんな指導しかできないんですか?」

藤代:普段はどのような活動をしていますか?

川島:今は東京の小学生バレーボールチームの監督をしているので、そのチームで指導しています。

藤代:対象は何年生くらい?

川島:小学校1年生から6年生までの男女です。

藤代:この前ちょうど子どもたちにも会わせていただいて、みんな元気で自分らしく活動している子が多いなという印象を受けました。もともとバレーボールにはいつから関わるようになったんですか?

川島:僕自身は中学生からバレーを始めて、高校卒業後は自衛隊に入りましたが、自衛隊の中でもバレーボールをやったりしていました。高校卒業と同じ時期に、高校での恩師が教えていた女子チームのお手伝いに行くようになって。十何年かやっていて、少し時期が被ってしまうのですが、娘がバレーボールをやりたいとチラシを持ってきて、保護者として最初は関わるようになりました。

藤代:なるほど。

川島:よくありがちな、保護者のコーチという形で関わるようになった感じです。

藤代:指導歴は20年以上?

川島:もう、そうですね、25年とか30年くらいかな。

藤代:すごい!!その中でしつもんメンタルトレーニングに関わるきっかけはどこにあったんですか?

川島:以前指導していたのは小学生の女子チームなんですが、地域の大会で優勝したり全国大会に出場したりするチームだったんです。前までは昔ながらの指導といいますか、厳しい言葉で叱咤激励するような指導が中心でした。娘がチームを卒業しても、3年くらいはいましたね。

ご縁があって、コーチがいないという東京の世田谷のチームを紹介されてそのチームに関わるようになり、そのまま監督をやるようになった。同じような指導をしていましたし、それまでのやり方で卒業生や保護者の方とトラブルがあったわけではないし、求められてそのチームに行ったので違和感もなく、無我夢中でやっていたという感じですね。

当時のチームはとても弱いチームでした。11年前なんですけれど、3年生からバレーを始めたという5年生の子が、「練習試合でも1セットも勝ったことがないです」と。1度くらいは勝ってみたいですというところから、「頑張ろうか!」と言ってだんだん練習量が増えていった。でも、東京だと誰も知り合いがいなくて練習場所を確保できないんですよね。地元の場所を借りて、子どもたちが僕のところに通ってくる形で半年くらいは続けていました。途中から東京で場所を借りて僕が通うようにはなりましたが、部員もだんだん減ってくるし、減っては増え、減っては増えを繰り返していた。部員を増やすためにバレーボール教室もやっていたんですが、なんとなく、上手くいかないなという思いをずっと抱えていました。

去年卒業した小6の子がいるんですが、その子のお母さんから、「こんな指導しかできなんいんですか」と言われたことがありました。その子が5年生の時です。上の学年がいて、次の学年になるよという時に、6年生も1人しかいなかったんですけど、他のチームと合宿をやって、それこそ昔の根性バレーみたいな合宿をずっとやっていた。そしたら保護者の方に「こんな指導しかできなんいんですか?」と。

藤代:その保護者の人はどういう意図で言ったんだろうね?

川島:その時は、色んなチームの指導者の方もいたので、子どもたちは一生懸命やっていた。厳しい練習風景を見て、「そんな練習方法しかないんですか?」という感じだったと思います。

藤代:その時は、そう言われてどう感じたんですか?

川島:正直、何言ってんだと思いました。

藤代:ずっとそれでやってきたわけですし。

川島:その他の保護者は、「こういう練習法でもいいですよね」と。「この合宿が何年か前からできだして、いいですよね」と言ってくれていた。なので、これでいいのかなという感じだったのですが、その方はいいと思わなかったみたいですね。

 

「うまくいかないな」という思いを救ってくれたしつもんメンタルトレーニング

藤代:なるほど。素直に言ったということですね。

川島:そうですね。素直にポロっと言っちゃったと思うのですが、僕の中ではわだかまりが残ってしまったんです。「これでいいわけじゃないんだな」と。その子の代になって、6年生で1人だけすごくおとなしい子だったんですよね。体も小さいし、自分の言いたいことを言えない子だったし、僕の高圧的な態度の指導になじめない子だった。

以前から指導法の本を読んだりはしていたのですが、何かこう、うまくいかないなとずっと感じていました。しばらくそのままでいたのですが、ふと本棚を見た時にメンタルトレーニングの本があって、メンタルトレーニングで検索したんですよね。そしたら「しつもんメンタルトレーニング」がでてきた。これなんだろうなと思って、そこからサイトに入っていったら、講習がありますと。そのときは静岡のなおちゃん(伊藤直子さん)の名前で募集しているサイトがあって、曜日がたまたまピタッとあって。もうそれで、衝動的に申し込みしました。

藤代:どちらの指導が良い悪いという必要はないけれど、その女の子との機会がなければ、ずっとそのまま同じ指導法でやっていた可能性があったということ?

川島:その可能性は高かったかもしれないですね。お母さんから言われたことで、自分はこれで良いとは思っていたけれど、これで本当にいいのかなと。ある指導法を紹介している方がいて、そこにずっと勉強しに行っていた。でも、「そういう言い方をする指導者はダメなんだ」という切り口なので、行く度に気持ちを重くして帰ってきていたんですよね。

藤代:なるほど。

川島:言っていることはわかるんですよ。正しくて、まさに正論。僕がやっていることはとても言えない。聞けば聞くほどダメ出しされて帰ってくる。やっぱり今のままだといけないんだなと思って指導法を変えるのですが、納得感がない。だからまた元に戻ってしまう。それを繰り返していたんですね。それで、あの保護者の方の発言で、もう1回何かアクションを起こさないといけないのかなと思っていた。「こんな指導しかできないんですか」と言われて頭にはきていながらも、「どこかで何か変えないといけないんだろうな」と。

それで探していたら、たまたま「しつもんメンタルトレーニング」に出会えた。内容を知りたいなと思って、最初はアクティビティー講座に行ったんですが、すごくいい内容でした。アクティビティーの内容もワークブックの内容も伝えようとしていることは同じで、なるほどなと納得することがたくさんあった。それでワークブック講座も受けたいなと思って、2019年8月にゆっきー(小林由希子さん)のインストラクター養成講座を受けたんですよね。

 

自分はどんな指導者になりたいんだろう?

藤代:実際に実践してみて、自分自身の変化はありましたか?

川島:めちゃくちゃありましたね!

藤代:例えば?

川島:子どもたちに怒っていた理由がわかりました。どうして今僕は怒っていたんだろう?と考えるようになったら、子どもたちがどうしたいかという視点が全くなかったんですよね。要は「自分がこうしたい」ということが先にきてしまう。

藤代:コーチとして、指導者として。

川島:そう。自分がこうしたい、こうしなきゃいけないという思い込みがすごくあると気付いた。今まではそれで結果も出してきていたし、それでいいんだと思っていたのですが、しつもんメンタルをやり始めて、子どもたちにも当然やりたいことがあるよねと単純なことに気づいたんです。しつもんをして、自問自答している時間がすごく増えました。しつもんメンタルを始めて一番変わったことは、僕が僕に問いかけることが増えたことだと思います。

藤代:なるほど。

川島:他人に投げかけるしつもんよりも、自分に向けたしつもんが多くなった。「どのような指導者になりたかったんだろう」「どんなことを教えたいんだろう」と、そういう事を考えていくうちに、しつもんメンタルの「メガネシート」にしても「自分らしさ発見」にしても、自分の内面が深まっていく。これをきっかけにもっと勉強したいと思うことが増えてきた。

藤代:かつてはこうしてほしいという期待が強くて、その通りに子どもたちが動いてくれないと怒りが生まれてきて、強く言いすぎてしまったということだもんね。

川島:強く言い過ぎたとしも、それが愛情だととらえてくれる子どもたちもたくさんいた。愛でごまかされていたと言うんですかね(笑)

藤代:愛でごまかしちゃダメだろと(笑)

川島:なんとなくそう思ったんです(笑)

愛が伝わっていれば何でも許されるんだと。結果的に愛が伝わっていればOKだろうと。相手も監督がすごく愛してくれているとわかるから、愛がある指導だからいいと思う、と。今思えば、子どもたちの方が大人で、納得してくれていたと思いますね。ただ、今はそれを全く止めて、子どもたちがどうしたいんだろう、どうなりたいんだろうと考えて、子どもたちがしたいこと、なりたい姿を実現できる人になりたいと思っています。子どもたちの「なりたい」を先に実現していったら、僕の「なりたい」も実現していく。具体的に何をしたらいいかということがわかってきましたし、しつもんの仕方にしても、子どもたちに問いかけるだけで、子どもたちの考え方が深まっていくってことがわかった。そうしたら違うことをやる必要がないなと思いましたね。

 

保護者と一緒に「子どもたちに失敗の経験を」

藤代:子どもたちの変化で印象に残っていることはありますか?

川島:僕の存在が薄くなったということかな。

藤代:それはどういう意味(笑)?

川島:要は、今までは僕自身が目立つチームだったんですよ。外から見ていると子どもたちより指導者の僕が先に目に入ってくる(笑)

藤代:大きな声で話して(笑)

川島:大きな声で話すし(笑)。今は、どこにいったの?という感じで(笑)。子どもたちも僕のことを気にしてないわけではないんでしょうけれど、見てくれる時に圧倒的に笑顔が増えました。

藤代:子どもたちの笑顔が増えた!!

川島:ええ、圧倒的にです!!今まで子どもたちが僕を見てくるときはどこかおびえていた。僕を確認しているんです。これでいいんですよね、と。いまはもう、それがないですね。子どもたちだけで話し合って、物事が進んでいく。自分たちで進めていていいんだという安心感があって。だから何かを確認したくて選手たちが聞きに来るんですけれど、「君たちはどうしたいの?」としつもんしかしない。最近は、選手たちが「私たちはこうしたいです」と言って、「じゃあやってみようよ」という会話しか成立してないです。

それで物事が進んでいって、たまに失敗したりするじゃないですか。以前は保護者も口を出してサポートしていたんです。でも保護者の方々にもしつもんメンタルトレーニングの講座を開いているので、保護者の方も口を出さなくなった。一緒に子どもたちの失敗を見守るようなチームになりましたね。それがこれまでと全然違うんだと思います。

藤代:すごいね!

川島:自分たち大人の経験から、このままいったらきっと失敗するよねとわかってはいるんですけれど、「でも失敗させようよ」という感じですね。

 

「誰も苦しまないチームへ」親も子どもも、そして自分も

 

藤代:それは、ガラッと変わったわけではないと思うのですが、子どもたちや保護者の方たちは最初戸惑いがなかったんですか?

川島:相当戸惑ってましたよ(笑)。どうしちゃったんだろう?監督がそう言っているけれど、本当かな?と。どこまでこの人本気なんだろうと思われていたでしょうし、「また1週間もしたら前みたいに戻るだろう」と思っている人もいたと思います。それが、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月とやってきて、試合での子どもたちの変化を見て、保護者が1番最初に納得してくれたんだと思うんですよね。

藤代:それはどういう変化だったの?

川島:試合をしているとうまくいかなくなるときがある。それまでは、うまくいかなくなったときに子どもたちが「どうしようどうしよう」という、オドオドした感じがすごく表に出ていたんですよね。今は、「どうしよう」ではなくて「自分たちでどうにかしよう」という感じが出ていて。「今のプレーはどうしようとしたの?」と聞くと、「私たちが決めたことなので口出さないでください」とバシッと僕に言えるようになってきたんですよね。

藤代:面白いね。

川島:僕が言われている姿を保護者が見てびっくりして、逆にオドオドしてたりね(笑)

藤代:逆にね(笑)

川島:そんなこと言っちゃっていいの?みたいな気持ちになったんでしょうね(笑)それで、僕が楽しんでいる感じがすごく伝わったと思うんですよ。親も子どもも私も、みんな楽になった。誰も苦しくないチームになったのかなと思うんです。

藤代:だいぶ肩の力が抜けた感じなんですね。

川島:僕の力は抜けてきていますね。「しつもんメンタルトレーニングを取り入れてやってます」といろいろなところでお知らせしていて、講習会をやったり、他のチームが僕のチームにきて一緒にやったりするようになりました。この間も「スポーツ探求教室」をやりましたというお知らせを出しましたし、昨年の12月1日には指導者講習会をやってくれと言われて、24名のバレーボール指導者に向けてしつもんメンタルトレーニング講座を行いました。

その時の指導者の方たちの反応が、僕が自身の指導法に悩んでいたときの反応と全く同じだった。みんな知りたがってるんだ、こういう方法に出会いたがってるんだ!と感じて。一方で、出会えないでいるんだということもすごく思いました。ふじしーがやっている「つながりプロジェクト」もこういう気持ちから生まれたのかなと思ったんです。出会いたくても出会えてない人たちに届けていけたら、と。特に大きな変化が起こることを期待しているわけではなく、小さな気づきがあってくれたらいいなと思います。

講習会の日は、指導者は子どもたちが練習している会場に戻るんです。しつもんメンタルトレーニングを受けて帰っていくと、子どもたちは練習している。その時に「みんなが感激して、すごい笑顔で帰ってきたよ」と言われたんです。それを聞いて良かったなと思いました。笑顔になれるようなことをやれているのでそこは良かったなと思います。

 

会社でもインストラクターを養成したい

藤代:今のお話と重なるかもしれませんが、今後はどんな活動をしていきたいですか?

川島:まずは地道に僕のできる範囲でしつもんメンタルトレーニングを取り入れていきたいですね。昨年8月にワークブックインストラクターを受講してから、働いている会社内でも講座をやってみたり、部下にしつもんで話しかけてみたり、社内で取り入れています。僕が働いている施設には3300人くらい社員がいるのですが、施設の一番上の方にこういうことやっていますと話をしたら、その場で「しつもんメンタルトレーニング」をパソコンで調べられて。

藤代:ほんとですか!(笑)

川島:「子ども向けなの?ビジネス向けじゃないの?」と言われたので、「今僕がやっていることは正直ビジネス向けではないです。ただ、共通することはたくさんあります。特に子どもに限定するものでもないです」と答えました。「コンテンツそのものは変えられないですけれど、僕が会社に合うように、伝えたいことは変えられると思います」という話をしたら、「じゃ、やってみてよ!」と言ってくれて話が進んだ。今、「技能長職」という方がいて、部下が40人くらいの長の人がいるんですよね。その方たちに向けて、2019年8月から毎月連続で講座を開いています。2020年度は社内で少し予算をとって、他の方たちに向けて講座を開くということをやろうかなと考えています(※)。あとは、レーナー講座を受けて、会社内にインストラクターをたくさん作りたいんですよね。

※会社での講座は2020年7月まで開催された。

藤代:おー、いいですね!

川島:会社内の施設を使わせてもらって、インストラクター講座を開いて、インストラクターの方を増やそうかなと。どんな風にできるかまだわからないですけどね。

藤代:やりたいこととして、社内をより良くしていきたいということだね。

川島:より良くしていきたいですし、会社の中でも、まわりにはスポーツに関わっている方がたくさんいるんです。野球もサッカーも、ラグビーもバレーも。指導をしている方たちのヒントになれたらいいなと思います。僕が僕のまわりでやれることを伝えていければ、「これ、いいな」と思ってくれる人は増えるのかなと思います。

藤代:いいですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。

川島:こちらこそ、ありがとうございました。