「勝っても負けても「楽しかった」と言える場をつくりたい」小泉 博孝さんインタビュー

小泉 博孝さん(しつもんメンタルトレーニング トレーナー)
1973年埼玉県秩父郡(横瀬町)生まれ、神奈川県綾瀬市在住、事務・光学機器メーカー勤務 。双子を含む3人の父親で、過去には難病のギランバレー症候群を経験。中学生からバレーボールをはじめ、高校・実業団を経て現在のソフトバレーに至る。全国大会や各地への普及・交流活動の傍ら、ジュニアチームの指導者に携わる中で しつもんメンタルトレーニングと出会う。現在は地域のバレー教室講師、大人や子ども達が自分らしく輝ける世の中へのお手伝いとして、スポーツ関係や職場・会社で“しつもん”の活用を行なっている。 ▶ブログはこちら

公益財団法人 日本スポーツ協会 公認スポーツ指導者

 

過去の叱責をやめて、未来の話をする

 

藤代 いまはどんな活動をしてますか?

小泉 元々はジュニアチームのバレーボール指導者(コーチ)をしていたときに、しつもんメンタルトレーニングと出会いました。いまはチームを離れて地域のバレーボール協会主催のバレー教室で実践したり、知り合いで興味がある方から依頼をいただいたり、定期的に講座を開いたりしています。会社ではこの春に(グループごと)異動した先の部署で、今後実践できそうな動きもあるんです。中国拠点で社長をされてた方が日本に戻ってきて部門長になられ、グループ単位で全員と面談をやるなどコミュニケーションを大切にされている印象の方なのですが、中国でやられていた感謝の文化を醸成する「感謝銀行」という取り組みを部署内で実施したいという話をされていました。そんな中、以前から直属の上司に「メンタルトレーニングというのをやっています」と伝えていたこともあってか、「小泉なら感謝銀行の想いに関係するんじゃないか?」と推進メンバーに推薦いただき携わることになった。部署内では忙しさや恥ずかしさなどから「ありがとう」の感謝を伝えることがしにくい雰囲気も感じていて、これから取り組み始めていくところです。

藤代 おー!当時はバレーボールの指導者としてしつもんメンタルトレーニングを知ってくれて、いまはバレーボール協会のインストラクター活動もしているんですよね?

小泉 そうですね。協会には何年も前から携わっていて、インストラクターの他にホームページ管理など、指導していたチームを離れてからも微力ですが続けていますね。

藤代 そうですよね。そして、地域や知り合いの方、職場で活かしていると。当時はどんな課題があったんですか?

小泉 当時は、県大会に出られるくらいのレベルには来ていたんですが、なにか物足りなさを感じていました。練習量を増やしたりして体力も技術も上がってきたんだけど、なぜか試合になると緊張してしまって勝つことができない。そうしたことが続いたんです。

藤代 なるほど、なるほど。

小泉 ですので、何かヒントになることがないかなと悩んでいたら、藤代さんの本「子どものやる気を引き出す7つのしつもん」に出会ったんです。「教えることをやめる」と書いてあって、当時それが衝撃的だったんですよ。ですので、さっそく書いてあることを実践してみようかなと考えました。そして、実践してみると少しずつ子どもたちの反応や表情が変わってきたんです。「お、これはすごい!」と、そのタイミングでメルマガを開くと「しつもんメンタルトレーニングでは、新たにつながりプロジェクトを実施します!」というメールが届いていたんです。当時、2チーム合同で申し込むと無料で講師の方が来てくださるということでしたよね。僕たちのチームにはインストラクターのカズさん(上村和弘さん)に来ていただき、とても充実した時間を過ごすと同時に、体験することで「こうだったんだ!」と本では理解しきれなかった新しい気づきが生まれました。当初は、講師の方に何回か来ていただくことを想定していたのですが、しつもんメンタルトレーニングには「伝える側」になることもできると聞いて、さらに興味を持ち始めたんです。

 

(しつもんメンタルトレーニング・つながりプロジェクト)

 

 

藤代 なるほどね!本番になると力を発揮できない子どもたちがいて、実際に本の内容を試してみた時に、何か変化はありましたか?

小泉 言葉がけがメインだと思うんです。元々、僕は強く言うタイプのコーチじゃなかったんですが、一緒にやっている指導者の方やお手伝いをしてくれている人達が強い口調で言うことを時折見受けることはありました。その中で、過去の叱責をするだけでなく、「どうしたらよかった?」と未来のアイデアに耳を傾けることや、そういった雰囲気や環境をつくることが大事だったのかも、と感じています。

藤代 それは、子どもたちの未来を一緒に考えたり、聞いたりすること、そして、話を聞いているよという姿勢が大事ということ?

小泉 そうですね。当時は、未来について話すところまでいってなかったかもしれません。でも、例えばミスをしたときに「なんでミスしたの!」⇒「どうしたら うまくできると思う?」、「悪かったところは こう直しなさい」⇒ 「よかったところは 何があった?」、「どうせ無理・・」⇒「できるよ!大丈夫!」といった具合に質問やその子ごとに声掛けの内容やタイミングを変えていったら子どもたちが少しずつ変わってきたと実感しています。

藤代 なるほどね。「なんで?(WHY)」をやめて「どのようにすれば?(HOW)」を始めたところ、少しずつ変化があったんだね。

小泉 そうですね。

 

 

子どもに任せると「自信」が高まる!?

 

 

藤代 他には、印象に残っていることはありますか?

小泉 メンタルトレーニングを学び始めてから、ボトムアップ理論に近いかもしれませんが試したいなと思っていたことがあるんです。公式戦では無いのですが監督代行として参加する遠征大会があり、大会に向けて自分たちでメンバーを決めたり、どんな練習をするのか考えてやってもらいたいなと。指示をするのではなく、すべて子どもたちに任せてみようと。大会中、1戦目は上手く結果が出なかったんですけど、1日何試合もあるので、その中で試行錯誤を繰り返しました。2戦目は強豪チーム相手だったんですが、接戦に持ち込むことができたんです。リードされても盛り返して、そして、逆転して勝ったんですね。その後の試合もその流れのままに、上位のリーグに入って大会を終えました。他のコーチの皆さんからは最初の試合が終わった段階で「ダメですね、今日は」なんて言葉が聞こえてきたのですが、僕は何日かかけて子どもたちが自分で決めて取り組んだことを信じようと考えてました。ですので「この大会は僕が責任を取るので、このままやらせてください」とみなさんにもお伝えしたんです。すると、結果的に子どもたちも満足できる大会になりました。これが正解かどうか分かりませんが、自分の中ではとても印象に残っている出来事です。

藤代 もちろん、もちろん。その時の気づきは何だったんですか?

小泉 子どもたちが自分で考えて、やってきたことを任せてみること。それが上手くいっても、上手くいかなかったとしても、実践することが大事だと気づきましたね。それができたかな。

藤代 彼女達はその大会を通じてどんな感想を持っていましたか?

小泉 そうですね、自分たちで考えたり決めたことを実際に表現できたことで、自分たちの糧になった、自信になったというようなニュアンスのことは言っていたり、バレーノートにも書いてありましたね。実はその前の週にも強豪チームとの練習試合があったのですが、今までだったら1セットも取れなくて負けていたようなチーム相手に、五分五分のところまでいったんですね。自信がついた状態で大会に臨めたこともひとつの要因だったかもしれません。

藤代 いままでは、コーチや監督が用意した練習をし、試合中の多くの場面ではコーチの指示のもとに動いてもらうことが多かったけれど、それを一度手放して、「自分たちでやってみようか」と伝えてみたんですね。

小泉 たまたま監督が来ることができないという事情もあったので、今回の大会は「子どもたちに任せてみてもいいですか?」という話はしました。

藤代 なるほど。

小泉 子どもたちは結果もついてきて好印象でしたが、保護者や他の指導者の反応はイマイチだったかな?という感じはありました。

藤代 というと?

小泉 そのやり方がどうなのか?といった反応だったんです。

藤代 イマイチかな、というのは何に対して?

小泉 自分たちで考えてやることに対して、ですね。その場面だけを切り取って見た場合、一見、まわりからするとダラダラやってるようにも映ったりして。たとえば「練習は身体を動かしてこそ練習であって、その場所で止まって考えたりすることはもったいない」と陰で言っていた方もいたみたいなんです。

藤代 なるほどね。今回、子どもたちに任せることを決めたとき、その思いを保護者の方にお伝えしたりしたんでしたっけ?

小泉 そうですね…みなさんに「子どもたちを信じて任せたいと思います」とは言っていたけれど、もしかしたら僕の伝え方や配慮が足りなかったかもしれないですね。
つながりプロジェクト(しつもんメンタルトレーニング講座)に来てくれた人は少し理解してくれていたように思いましたが、来られなかった方への説明はうまくシェアできていなかったかもしれません。

藤代 なるほど。なるほど。僕も気をつけていることなんですけど、子どもたちだけでなく、関わってくださる人にも「なぜ、これをやっているか?」を伝えることがとても重要だと思っているんです。例えば、僕がチームの保護者のみなさんに「送り迎えをしないでください、自分で練習会場や試合会場まで来るように伝えてください」と伝えたとしますよね。でも、その「理由」が共感できるものでないといけないんです。「スポーツだけでなく、子どもたちには自分で考えて行動できるようになってほしいと思っています。ですから、試合会場までの道のりを自分で調べて、失敗しながらも、成長していく過程は彼らのためになると感じています。ですので、すこしずつ、彼らが自分で会場に迎えるようにサポートをお願いします」といった具合です。「なぜ、やるのか?」という理由がとても重要だなと思っていて、そこに共感してもらいたい。でないと、ついつい批判的にとらえ、伝えたいことが伝わらなくなってしまう。ですので、その辺は配慮があるといいですよね。

小泉 なるほど、そうですね。試してみて、時期尚早だったかな、まだ早かったのかなとも感じていたんです。

藤代 それはどうしてですか?

小泉 実際、周囲の反応がイマイチだったんです。でもその時は「やらないより、やってみたい」と思いが先でした。うまくいかなかったとしても、やってみることに価値を感じていたのかな。

藤代 それは僕もそう思います。何が正解か分からないじゃないですか。僕たちの信じる「しつもん」が本当に正解かどうかも分からない。それと同時に「議論が生まれること」はとても重要だと思っているんです。実際に行動してみることで、「どうしたいだろう?」という疑問が生まれる。なりたい姿に向かうために「質問」という方法もあるし「怒鳴る」という方法もあります。でも、そもそも私たちのチームは「子どもたちにどうなってほしいんでしたっけ?」という議論ができることって、とても良いなと感じているんです。

小泉 たしかにそうですね。いま改めて当時を振り返ってみると、自分自身がいろいろな事にとらわれていたり、自分を満たすことができていなくて、逃げていた部分もあるのかもしれないけど、これらの失敗や思い通りにいかなかった経験が、いまにつながっているとも思えます。

 

 

しつもんは「子どもの本音」に出会わせてくれる

藤代 最近はしつもんメンタルトレーニングを色んな場面で実践していると思いますが、そこで感じたことや気づいたことはありますか?

小泉 最近は、バレーつながりを中心に大人向けに講座をすることが多いですね。お母さんなど女性の方はとくに興味を持ってくださる方が多いという感覚はありますね。

藤代 おー。お母さんなど女性の方たちの感想はどんなものがありますか?

小泉 「自分らしくいていいんだ」というところに共感している方が多くいます。「こうじゃなくちゃいけない」、「変わらなきゃいけない」と自分を責めることが多かったけれど、いまの自分にも良いところがあるんだと思えてホッとしました」と言っていた人がいましたね。あるお母さんは高校生の娘さんと一緒に来てくれたんです。お母さん曰く「なりたい自分になる、みたいなことを考えてほしいと思い参加することをすすめましたが、娘は引っ込み思案なので、みんなの中に溶け込めるか分からない」と心配していました。でも実際は、娘さんは自分の意見をしっかりと伝えていて、高校生なりに自分と向き合って考えているんだな、ととても感じましたね。「自分らしさ発見」のワークでは、レガシーを選んでいたんです。僕はレガシーを選んでいる人を初めて見たんですよね。(レガシー:将来を考えて行動する)

 

 

 

藤代 お母さんはどんな感想を持っていました?

小泉 「初対面の人たちを前に自分の意見を言ったり、やりたいことを考えたりする経験は貴重だったし、娘が意外としっかりと話していて安心しました」と言っていましたね。参加してくれた方々が温かい良い雰囲気を作って下さった事も、とても助かりました。こうして講座を開くことで誰かのお役に立てているのかなという喜びと、僕自身も学びが深まっているんだな、というのも実感しましたね。

 

 

勝っても負けても「楽しかった」と言える場をつくりたい

 

藤代 なるほどなー。今後はどんなことをしていきたいですか?

小泉 大きなことはやれないかもしれませんが、自分にできることをひとつずつやっていこうかと感じています。冒頭の「感謝銀行」についても、引き寄せの法則でしょうか・・・たまたま社内の別部署で同じような想いを持って活動されている方とつながりを持つことができて一緒に進めていくところです。それをきっかけにいろいろな方とも新たに繋がることができ、進展しそうだなと感じています。「ありがとう」「いいね!」と感謝や承認を伝える風土をつくっていき、ゆくゆくは全社やグループ全体、取引先などにも広がったり、モチベーションアップやチーム力の強化などへ向かっていくこの活動自体のビジョンもありますが、僕としては“しつもん”のメソッドもつなげて考えて活かしていきながら、共感してくれる人達を増やしていきたい想いもあります。

藤代 なるほど、なるほど。小さいことをやりたいと言っていましたけど、例えばどんなことをやりたいですか?

小泉 以前の講座で、ふじしーの言っていた「目の前のファンを大切に」をまずやっていこうと思い、しつもんメンタルトレーニングの講座は数ヶ月に1回程度はやるようにしているんです。ソフトバレーでは現在チームに所属してないフリーの状態だけど、幸い月に数回ほど出場オファーを頂けていて。出るときには最初に「終わった時にどうなっていたら最高?」と仲間に聞くようにしています。「こうなったら最高だよね!」とみんなでゴールを設定したり、劣勢になったときも「前向きな声かけ」をすることで、冷静に関わり合うことができるんです。もちろん、結果が出るときもあれば負けてしまうこともありますが、みんな満足して「楽しい大会だった」と言ってもらえているので、それは僕も嬉しいですね。プレーの技術や経験の部分もあるとは思いますが、チームの関係性や雰囲気とかも大事にしたいと考えていますし、それでオファーしてもらえているのかな、と思うようにしています。

藤代 いいですね!ありがとうございます!

小泉 ありがとうございました。

 

 

 

 

 

ABOUTこの記事をかいた人

藤代 圭一

一般社団法人スポーツリレーションシップ協会代表理事。 しつもんメンタルトレーニング主宰。   「教える」のではなく「問いかける」ことでやる気を引き出し、 考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。 全国優勝チームなど様々なジャンルのメンタルコーチをつとめる。   著書に 「スポーツメンタルコーチに学ぶ『子どものやる気を引き出す7つのしつもん』(旬報社)" 「サッカー大好きな子どもが勉強も好きになる本」(G.B.)「惜しい子育て」(G.B.)「『しつもん』で夢中をつくる! 子どもの人生を変える好奇心の育て方(旬報社)」がある。