問いかける指導のすごさに「嫉妬」しました 安田英之さんインタビュー

安田英之さん(GOOD TODAY)

4歳から50歳以上を対象に、23年間、空手指導に従事。現在はインストラクター仲間である佐々木雄一さんとスポーツ・教育・学びのコミュニティ「GOOD TODAY」を運営。しつもんメンタルトレーニングをベースに、人を育てる環境や関わりを学ぶ場を提供している。

 

問いかける指導のすごさに「嫉妬」しました

 

藤代 最近はどんな活動をしていますか?

安田 仲間のさっさん(佐々木さん)と近所の様々な競技指導者としつもんを取り入れて、よくミーティングをしていますね。息子の親同士の繋がりで、バスケットボールを指導している方とか、空手の指導者の方と一緒に時間を過ごしています。そこで、「安田さんがやっていることってなんですか?」と聞いていただくんですよね。やっぱり悩んでいる方が多いんです。「いまの自分の指導はどうなんだろう?」と。

藤代 なるほど。

安田 それで、藤代さんの本を紹介したり、月に1回くらい1対1で会ったりして「指導どうですか?」って話をしてますね。

藤代 もともとは、しつもんメンタルトレーニングに来ていただいたのはいつでしたっけ?

安田 最初は、2014年の12月でしたね。

藤代 すごい。よく覚えてますね(笑)

安田 京都で受講したんです。

藤代 そっか。名古屋から京都まで来てくれた時ですね。小さい部屋でしたね(笑)

安田 友人の田上さんと一緒に受講したんですよ。昼間は京都観光をして、夜が講座でした。

藤代 最初の講座の印象ってどうでした?

安田 いわゆるグラウンドルールを聞いたときに、僕の頭の中が崩壊しました(笑)

藤代 なんで?(笑)

安田 「答えはすべて正解」じゃないですか。僕たち空手の世界だと答えが「押忍」しかないので(笑)

藤代 答えはすべて「押忍」(笑)

安田 そう。答えはひとつしかない常識の中にいたんだけど「答えはすべて正解です」って言われて逆に少し困惑しましたね。

藤代 本当にそれでいいのだろうか?と。

安田 そうですね。今は答えがいくつもあることが心地いいですけどね。

藤代 当時は空手の指導をしていたじゃないですか。その頃は、子どもたちに「押忍」しか言わせない指導をしていたということですか?

安田 そうゆうわけではないですけどね(笑)指導者同士、縦の師弟関係の中だと、何か上から要求されたら「押忍」以外の返事はあまり考えられないんです(笑)超トップダウンな環境でしたので、「答えはすべて正解」というルールを聞いた時の衝撃はとても印象に残っています。

藤代 その後にインストラクター養成講座を受講した後、実践してくださったと思うんですけど、何か子どもたちとの関わりで印象に残っていることはありますか?

安田 子どもたち同士が練習中に喧嘩をしていて、いままでなら「なにやってるんだ!」って怒鳴るアプローチをしていたんです。でも、しつもんをすることにしたんです。喧嘩をしている当事者の2人に「どうしたらそうならなかった?」と聞いてみたんですよ。周りにいる子どもたちも僕が怒鳴ると思ってたんですよね。恐らく、その子たちも自分も怒られると思っていたと思います。でも、僕が怒らず、しつもんをすると、みんなポカーンとしたんですよ(笑)あれっ?何が起こったんだ?なんか違う!みたいな感じで(笑)その後、当事者の子たちが冷静になって「こうすれば喧嘩にならなかった」とアイデアを伝えてくれたんです。せっかくの機会なので、当事者以外の子たちにも聞いてみたんですよ。すると「もっとこうすれば良かった」「僕だったらこうしてた」と返事があったんです。その時に「しつもんはすごい効果がある」と感じたと同時に、すごく嫉妬もしました(笑)

藤代 嫉妬ですか(笑)

安田 そうです。20年以上指導してきて知らずに。これってすごいじゃんて。でも自分が20年以上してきたことって何なのって。そうゆう感情もありました。

藤代 困惑?

安田 はい。でも子どもたちの雰囲気をみたら、しつもんを活用した指導の方が絶対いいなとすぐに感じたんです。叱った後って、どうしても雰囲気が落ちこんでしまう。ですので、練習の立て直しにすごく時間がかかったり、そのまま雰囲気を引きずっていってまっていたんですよ。

藤代 叱られると、みんな返事はするけど、心はそこに無く練習に身が入らないことってありますよね。

安田 そうなんです。しつもんをした後は、すごく切り替えやすかったですよね。沈んだ雰囲気にならなくて、アイデアがでてくるんです。

 

選択に迷った時に、自分に問いかける習慣を持てた

 

安田 他にも印象に残っていることがあります。小学校高学年・中学生対象の練習で、より実践的な練習をしたときのことです。その中で、どのくらいの時間、どんな時間配分で、何を誰がするのか?といったことまで全部自分たちで決めてもらったんです。もちろん、練習中のルールまで自分たちで作って。

「何を大事にしたい?」「なぜこの時間にするの?」と何度かしつもんを繰り返して内容を決めるサポートをした時に、とてもいい雰囲気になったんですよね。いままでは、僕がすべて決めてきたんですが、そうしなくてもものすごく大きな声を出して、自分たちで進める姿がそこにはありました。それを見て自分もすごく揺さぶられた経験がありますね。

藤代 揺さぶられたというのは?

安田 感動しちゃいましたね。自分がみんなに働きかけたんだけど、それを見て自分が。僕が頑張って子ども達を動かそうとしなくても、素晴らしい状態は作れるんだと。僕の中ではとてつもない発見でした。そこも少し嫉妬しちゃったんですよね(笑)もう少し早く知りたかったなって。そんな子どもたちの姿を見たら、上から指示や命令をだすような自分にはなれなくなってしまって。今までは、そうだったんですよね、あーしろ、こーしろって。いうことを聞かない子どもがいると、さらに自分の声が大きくなってしまっていました。でも、少しずつ指導法も変わってきました。子ども達だけでもできるんだ、というあの光景は自分の中に焼き付いてますね。

藤代 いま、活動する中でその原体験を再現したいっていう気持ちはありますか?

安田 そうですね。あの光景をいろいろな人にも伝えたい。子どもたちだけでもすばらしい行動を見せてくれるし、変化も起きる。でも、指導者の方自身が、見たことのない姿をどう伝えるかっていうのはちょっと工夫しないと、と思っています。

藤代 そうですよね。僕も同じようなことを感じた瞬間があるのでよくわかります。まったく同じじゃなくても自分じゃ想像していなかった目の輝きだったりとか、自分たちで考えている姿とか積極的な動きをみて感動したことって何度もあるし、自分たちが期待以上の動きを、子どもたちが目の前で行ってくれる。しかも、やれと言ったわけじゃない。自分たちが考えてやったことに心が揺さぶられるってことを何度も何度も経験しているから、きっとみんな同じような感覚を得るんじゃないかなって思うけど。

安田 インストラクターになってそれを伝えるっていうのもありますし、指導者なり親なり選手もそうですけど、自分自身に対して問いかけをする習慣を楽しんでほしいですね。僕自身もそれが一番大きかったことだなって思うんですよね。いつも頭じゃなくて、心でとらえる「僕はどうしたいんだろう?」って。つながりプロジェクトの時も連続してそれでしたね。

藤代 とゆうと?

安田 そもそも、プロジェクトの講師に手を挙げるか挙げないか。知らない人と関わるわけだから、凄くドキドキもするし。そこはいつも自分に問いかけていたんです。遠方からの講座依頼があってどうしようかなと。すごく遠いけど、時間がかかるとか、そういうことじゃなくて「自分はどうしたいか」とか「自分はそれをやりたいのか?」とか。そのように捉えていました。

藤代 なるほどー。僕もこの仕事をはじめた時に問いかけたしつもんがあるんですよ。自分がどうしたいかっていうしつもんに近いんだけど「お金をもらわなくてもやりたいことを何か?」「24時間やり続けられることは何か?」って自分に問いかけたときに、この活動は、たとえお金をもらわなくてもやりたいし、24時間やりたい。

安田 そうですね、近いかもしれない。問いかけは常にやってますもんね。こうゆう会話の中でもそうですし。

藤代 みんなでどんなことしようかなんて話したら1日じゃ足りないね。

安田 さっさん(佐々木さん)と電話している時なんて、そんな感じですよ。2、3時間があっという間ですよ。やっぱり指導者の方なんかには習慣づけの良さを伝えたいですね。

藤代 うんうん。自分自身に問いかける。

安田 子どもたち選手に、あーだ、こーだ言う前に自分自身に。僕はそれで凄く変われたっていうのがある。

 

損得ではなく、心が感じるままに動くこと

 

藤代 つながりプロジェクト(※)の話しに少し触れたいんですけど、何チームも行ってくれましたよね?

安田 僕は3回やって、あと大阪の田畑さんのサポートで奈良まで行かせていただきました。

藤代 名古屋から奈良(笑)すごい!ぼくの中で、とても印象に残っているのが、事前ヒアリングで、チームの課題を感じて指導者の方に会いに行ったことがありましたよね?

安田 アイスホッケーチームに関わった時に、依頼された保護者の方が「チームの指導者の方はあんまり乗り気じゃない」と仰ったんです。それを聞いて、そのまま開催してはダメだと直感が働いたんですよね。また、すごく期待してくれている思いを感じて、僕自身もしっかりとお応えしたいという気持ちがさらに湧いてきました。ですので、すぐに開催するのではなく、指導者の方にお会いする時間をいただいたんです。実際に伺うと、重い空気が漂っていたんですよ。その空気感ってわかるじゃないですか。

藤代 保護者の方と指導者の方の距離感だよね。

安田 どのように保護者と指導者が関わっているかとか、そもそも、アイスホッケーという競技を見たこともなかったですし、講師としてもまだ経験が浅い。そして、講座開催にあまり肯定的でない指導者の方とどうするか不安もありました。でも実際に顔を合わせて話しをしていくと「参加しないよ」という姿勢から「参加します」に変わったんですよ。

藤代 えーすごい。それはどうしてですか?

安田 まず指導者の方の話を徹底的に聞くことを意識しました。「どんなことに困っているのか」「どうしていきたいのか?」などたくさん話してもらったんです。まずは「参加してもらう・もらわない」は置いておいて、話を聞きたかったんです。興味を持って話を伺っていくと、指導者の方の中に「変えられたくない」とか、「わからないものをどうしてやらないといけないんだ」という思いに触れることができました。

藤代 なるほどー!

安田 結果的には、参加してくれて、楽しんでくれました。その後にも「名古屋で練習試合をやりますんで、来てください」とお誘いもいただいたんです。

藤代 すごいなー!僕も忙しいという言い訳をもとに、綿密な時間を作れないでいるなと感じていたんです。あらためて大切なことだし、凄いなと思いましたね。

安田 その時も、頭ではなく心で考えたんですよ。チームの活動場所が豊橋だったので、車で2時間くらいかかるんです。ですので葛藤はありましたけどね。

藤代 そうですよね。

安田 損得で考えるのではなく、心が感じるままに行動したかったんです。行動するってやっぱり大事だなって思いました。なんか、がっかりすることはあんまり無いですよね。やらない方が後悔があるんじゃないかなって。

※つながりプロジェクト
2017年に「友だちができる」というひとつのスポーツの価値に共感するチームを対象に無料でしつもんメンタルトレーニングの講師派遣を実施。全国各地から100チームの応募があり、3000人以上の子ども・保護者・指導者のみなさんに届ける活動となった。

 

素晴らしい仲間を世の中に紹介したい!

 

藤代 今後はどんなことをしていきたいですか?

安田 今後はすばらしい仲間を紹介する活動を広げていきたいと思っています。しつもんメンタルトレーニングを通じて、素晴らしい仲間と出会いました。彼らをもっと紹介したり、活躍の場を作ったり、何か出来ないかなと考えているんです。今は正直、空手の指導でどうこうは考えていないんですよ(笑)むしろ、この仲間とのつながりが凄くありがたいと思っているんです。人と会うと僕が変わるっていうか、すぐに影響受けちゃう(笑)

藤代 やる気になる?

安田 そうですね。この人をもっと紹介したい!と感じます。

藤代 いいですね。それは本当に心でやっている感じですね。頭じゃなくて。

安田 もちろん課題もあって、アイデアはたくさん出てくるんだけど、いままでに経験したことのないことばかりなので、大変なこともたくさんあります(笑)でも、協力的な人がたくさんいるから、困ったときにはみんなが助けてくれるんです。本当にすごい。

藤代 二人が開催した名古屋のイベントは、全国各地から仲間が応援に来ていたよね。ほんとうにすごいと思ったし、二人はたぶんそんな役割だと感じたよ。

安田 そうなのかな。

藤代 できることとできないことがあるから、できないことをきちんと素直に認めてお願いするというか。それって凄く大事なことだと思う。すごくバランスが難しいんだけど、「できないからやってよ」っていうわけではなく、「やろうと思っているんだけど、できないから手伝ってもらえないかな」っていう人には、応援したいなって思うだろうし。あとは、どこを目指しているのか、ビジョンに人は共感すると思うし、やっさんとさっさんには人間として信頼できる部分があるから、来てくれるんじゃないかな。

安田 ありがたいです。

藤代 ほんとに!インタビューは以上!ありがとうございます。

安田 ありがとうございます!

 

ABOUTこの記事をかいた人

藤代 圭一

一般社団法人スポーツリレーションシップ協会代表理事。 しつもんメンタルトレーニング主宰。   「教える」のではなく「問いかける」ことでやる気を引き出し、 考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。 全国優勝チームなど様々なジャンルのメンタルコーチをつとめる。   著書に 「スポーツメンタルコーチに学ぶ『子どものやる気を引き出す7つのしつもん』(旬報社)" 「サッカー大好きな子どもが勉強も好きになる本」(G.B.)「惜しい子育て」(G.B.)「『しつもん』で夢中をつくる! 子どもの人生を変える好奇心の育て方(旬報社)」がある。