第4回 自分からやろうとしたとき、子どもたちは変わる~池上正さんと学ぶ「考える子どもを育てるヒント」講演会より

池上正さんと学ぶ「考える子どもを育てるヒント」講演会より

~自分からやろうとしたとき、子どもたちは変わる~

サッカーをやめたいと思った大学時代。行動が変わったきっかけとは?

 

大学時代、所属していたサッカー部には部員が100人くらいいて、人数が多いのでAとBに分かれていました。私は付属高校だったおかげで高校生の頃から大学で練習する機会もあり、入学式前の春合宿では他の新1年生や先輩方がいるのにAチームだったのです。すると、他の同期たちが全く話をしてくれなくなりました。「1人だけAチームに行った奴なんて相手にするな」と。

1年生だけでなく、3年生や4年生の先輩にとってもめざわりな存在だったので、結構ひどいことをされました。月に1回、AとBで入れ替え戦をするのですが、監督が審判だから何をしても反則をとられない。彼らはいわば非紳士的なプレーをしてくるわけです。私はそういうことが嫌いだったのでやり返すことはせず、プレー自体もしませんでした。

結局Bチームに行くことを告げられ、もう嫌になりましたね。ちょうどその時、ドイツ留学をしていた先輩がたまたま帰国していて、
「もうこんな大学でサッカーやりたくないです」
と相談しました。すると先輩から、
「大学でレギュラーでもない奴がなんか言って、誰がそれを聞いてくれる?」
と言われたのです。尊敬している先輩から言われたこともあり、「そりゃそうだな」と思い直しました。
「じゃあ、レギュラーになろう」と自分で決めました。

当時、クーパー走という12分間走り続ける持久力トレーニングがありました。「やりたくない」と思っていたときは「早く終われ」「いま何分だろう?」とマイナスなことばかり考えていて、ビリから何番目という順位のところをいつも走っていました。

でも、2年生になって自分から「レギュラーになるぞ」と決めてからは違いました。12分間ずっと、「手を振れ」「足を上げろ」と心の中で自分自身に言い続けた。100人中10番以下に落ちたことがないくらい、走れるようになりました。

走るのが嫌いだったので、自分でもこんなに走れるのかと驚きました。でも、本当に、走れるようになったのです。

大嫌いだった監督にも、「すみません、こんな時はどんなプレーをしたらいいですか?」と自分から聞きに行けるようになりました。そして、監督の言う通りプレーするようにしたら、レギュラーになりました。

やはり、「自分から」という内発的動機付けが大事だと思います。自分がこういう体験をしているので、こどもたちも「自分でやるしかない」ということに気づけるかどうかだと思うのです。

(写真はイメージです)

プロになるためには、「自分で考える」ことが必要

 

Jリーグに関わるようになってからも同じです。

千葉で初めて中学生の選手たちや保護者を対象に説明会をしたとき、「前はYMCAで教えていました」と言うと、「YMCAって何?」「ガンバ(大阪)じゃないの?」「セレッソ(大阪)じゃないんだ」というような声ばかりでした(苦笑)。

練習は基本的に週3回。土日のどちらかは絶対に休みです。時間も6時スタートで、だいたい1時間半で終了です。8時を過ぎることはありません。練習後、自分たちでやりたいならやっていいよ、という感じでした。

 

休みは多いし、練習時間も短い。全然叱らないし、厳しくない。保護者からは「もっと厳しくしてください」という声が聞こえてきました。中には「小学生の頃はキャプテンで、監督に殴られたり蹴られたりしても頑張ってきた子なんです」と訴えてきた親御さんもいました。

 

でも、時間も回数も、そして指導方法も変えませんでした。

 

「私は日本一厳しいコーチのつもりです。子どもたちは全員プロになりたいと言っている。プロになるためには、自分で何でもできないといけないんです。自分でできない子はプロになれないんですよ。だから絶対私からは言わない。自分で気づかないと」

 

という話を保護者にはしました。

(写真はイメージです)

 

 

試合に負け続けていたので不満もあったのでしょうが、指導して5ヶ月くらい経つと、U-15の大会でジュビロ磐田に勝ったり、セレッソ大阪に引き分けたりと結果として表われ始めました。親御さんたちも、大会を見に来ていない親に「今日勝ったよ!」とかメールするんですね。すると、想像がつくと思いますが、手のひらを返すように「池上さんってすごいよ」と(苦笑)そういうこともありました。

 

ただ、組織内で担当変えがあって、中学生の指導から外れて小学校を回って指導することになりました。最後までその子たちを見ることができなかったのは残念でしたが、当時の中学生の中には今は千葉市で指導者になっている子もいます。当時言っていたことを今も大事にしてくれていて、子どもたちに伝えてくれています。

 

 

これまでの指導は一方通行。これからはコミュニケーション。

 

ジェフ(千葉)でそのような指導をしているときに、オシムさん(※1)がやって来ました。厳しいと評判のオシムさんでしたが、実は中身は自由なんです。サッカーの守り方は難しいシステムがあるように見えますが、オシムさんからすると、何もない、と。ディフェンスに向かって「どうして点を取られた?」と聞き、「だって、○○だったし・・・」と選手が理由を付けようとすると、「自分たちが守りやすいように守れ」「点を取られなかったらそれでいいんだ」としか言わない。「自分たちで考えろ」ということなんですね。

自分たちで考える。選手同士で話をする。結局、大事なことはコミュニケーションなのだとオシムさんは常々言っていました。オシムさんと出会えたおかげで自分が今までしてきたことを再確認できましたし、「なるほど、そういうことか」と海外での指導法をさらに学ぶようになりました。

 

コミュニケーションは一方通行では成り立ちません。質問を受け付けないような一方通行の授業や話し方はワンウエイコミュニケーションと言いますが、言う側にも聞く側にも責任があります。丁寧にゆっくり伝えることも大事だし、聞く側もわからなかったら質問したり確認したりすればいいのです。言葉で伝える口頭言語、行動で伝える行動言語、体で伝える器官言語など、あらゆるアンテナを全部張って人と対峙することが大事だと思います。

 

「あなたのことを大切に思います」と言葉では言っておきながら、用事だけ済ませてすぐ帰ってしまったら、あれ?となりますよね。学校に行きたくないときはお腹が痛くなったり頭痛がしたりします。それらもすべて含めてコミュニケーションなので、一方通行では伝えたいことが伝わっていない可能性があるのです。

 

ある地域で小学校高学年の児童に「『友だちと仲良くしなさい』と親から言われていますか?」とたずねたところ、男子は6割近く、女子は7割近くが「言われたことがない」と答えました。しかし、同じ質問を親にしてみると、9割の親は「『友だちと仲良くしなさい』と言っている」と答えたそうです。

 

親は伝えていると思っているのに、子どもには伝わっていない。実際の親は「あの子と遊んだらダメよ」という言い方をするときが多いですよね。コミュニケーションが一方通行だと、親の意識と子どもの意識に差が出てしまうのです。

 

日本の教育やスポーツを変えるなら、今。

今までの日本の教育やスポーツは一方通行だったと言えると思います。コーチが偉くて、言う通りにすれば間違いないという指導法だったと。

でも、これまでの指導法で自殺する子が出てきたり、いじめが起きたり、大変なことが起き始めています。そんな簡単に変わることはできないかもしれませんし、変わりたくても変われない人もたくさんいます。

でも、ようやく、日本全体で何かを変えていこう、変わろうとしているのが、今なのかもしれません。

お聞きいただき、ありがとうございました。

~つづく~

 

次回(最終回)は講演会参加者からの質問に池上さんが答えるQ&A特集をお伝えいたします。

※1 イビチャ・オシム氏
ユーゴスラビア(現・ボスニア・ヘルツェゴビナ)出身のサッカー選手・監督。2003年、ジェフユナイテッド市原(千葉)監督に就任。2005年にはチームをJリーグヤマザキナビスコカップ優勝へと導いた。2006~2007年は男子日本代表監督。世界各国で経験豊富な指導歴を持ち、サッカーに対する哲学的な考え方や発言は「オシム語録」として今も注目されている。

第1回から5回までの記事はこちら

第1回 池上流子育て~親子の真剣勝負~ 池上正さんと学ぶ「考える子どもを育てるヒント」講演会より

2017.08.02

第2回 私がやめた”2つ”のこと 池上正さんと学ぶ「考える子どもを育てるヒント」講演会より

2017.08.23

第3回 正義感は誰もが持っている。でも、育てないと大きくならない。 ~池上正さんと学ぶ「考える子どもを育てるヒント」講演会より

2017.09.11

第4回 自分からやろうとしたとき、子どもたちは変わる~池上正さんと学ぶ「考える子どもを育てるヒント」講演会より

2017.09.17
[kanren postid=”8272