【対談前編】いかに選手自身が考える場を作れるか?

岩本裕司さん、58歳。
代表監督自らが、動き始めようとしています。

「このままではいけない。アイスホッケー界に変化を」

日本では「マイナースポーツ」と言われ、男子チームは五輪出場から遠のいているアイスホッケー。男子代表監督である岩本さんは、現実と責任に向き合い、未来あるアイスホッケー界のために、監督自らが発信する機会を希望してくださいました。

岩本さんは20年間の現役生活の中で、日本代表としてリレハンメル五輪予選などに出場。当時の歴代試合出場記録である「日本リーグ604試合出場」も果たした経歴の持ち主です。

現役最後の2年間は選手兼監督を務め、所属していたチームの廃部という形で、2001年、39歳の時に現役を引退。「ミスター雪印」「アイスホッケーの鉄人」と呼ばれ、多くのアイスホッケーファンに愛されました。

引退後は、指導者の道へ。
ご存知ない方のために簡単にご紹介すると、以下の通りです。

  • 2004年〜 男子U20やU18でアシスタントコーチを務める
  • 2009年 ヘッドコーチとして率いたU20男子代表がDivision−Ⅱ優勝 昇格を果たす
  • 2009〜2011年 北米(NAHL)のチームでアシスタントコーチを務める
  • 2013年 H.C.栃木日光アイスバックス監督就任
  • 2014−15シーズンには、クラブ初タイトルとなる全日本選手権優勝
  • 2017年 男子代表監督就任

 

所属チームの廃部を経験しながらも、アイスホッケーへの情熱は衰えず、常に学び続けた岩本さん。

どのようなチーム作りをしてきたんだろう?
どのような育成法で選手を伸ばしてきたんだろう?

「不安定な人生も楽しもうと思っているんだ」と微笑む温和な表情と、トップ選手を率いる厳しい表情のギャップに、一人の人間として興味をそそられます。

今回は特別に、打ち合わせの様子を2回に分けて大公開!同席したのは、女子アイスホッケー元日本代表主将で、しつもんメンタルトレーニング・トレーナーでもある鈴木あゆみさん。現在は現場での指導から離れているものの、経験者だからこそ引き出せる岩本さんの思いや言葉にも触れていただければと思います。

アイスホッケー関係者の方も、これまでアイスホッケーを見たことのない方も必見です!

 

経験や知識を現場の指導者へ伝えたい

 

コロナ禍で考えた、これからの生き方

藤代:今日はお忙しい中、貴重なお時間いただきありがとうございます。

岩本さんと初めてお会いしたのは、数年前の男子U16セレクトキャンプだったかなと思います。それから何度かお会いする機会をいただき、僕自身、岩本さんから学ぶことがたくさんありました。今回、岩本さんから「全国の指導者や関係者の方に向けて発信していきたい」というご相談を受け、一緒に発信する機会を持つことになったのですが、そういった思いに至るきっかけや背景を教えていただけますでしょうか。

岩本:こちらこそありがとうございます。まず、みなさんもそうだと思うのですが、このコロナ禍で考えることがたくさんありました。日本代表監督を務めさせていただいているわけですが、どんな考え方で、どんな取り組みをしてきたかをより多くの方にお伝えする機会があってもいいのかなと思いました。アイスホッケー専門誌のインタビューに答えたことはありますが、もっと広い視野で、違う競技の方や保護者の皆さまからもご意見いただけたらと思っています。

日本のアイスホッケー界は、変えなければいけないことがたくさんある。じゃあ、自分は今、そしてこれから、いったい何をできるのだろうかと。現役選手としても指導者としても長くやってきましたが、指導者の方々に直接教える機会は少ない。選手たちだけじゃなくて、今現場で頑張っている指導者の皆さんに、自分の経験や考え方を伝えていくことも一つの仕事じゃないかと思ったんです。

せっかく代表監督までさせてもらったので、何かできないかと。でも、お恥ずかしながら、僕は話すのが苦手で・・・。

藤代:いやいや、そんなことはないですよ!

岩本:今、話し方の学校にも通っているんです。少しでも上手に話して、伝えられるようにと。僕の年齢から言っても、ずっと現場に立ち続けるのは難しいかもしれません。だからこそ、今、伝えていく仕事や機会を持ちたいなと。

あとは、裏方といいますか、現場の皆さんをサポートする機会ができたらと考えています。今は新型コロナウイルスの影響があってなかなか動けませんが、各地に行って指導者や関係者の皆さんとお会いしたいなと思っているんです。

藤代:なるほどなるほど。鈴木さんは岩本さんに話を聞けるっていうのは嬉しい?

鈴木:私に限らず、携わっている方なら嬉しいと思います。数年前に日本アイスホッケー連盟が開催する指導者養成講習会を受けましたが、指導者が学ぶ場は少ないなという印象があります。長期的視点で、日本のアイスホッケーをこうしていこう、ジュニアの選手たちをこうやって育てていこうという最上位目標が一致して、方向性を一致させることができたらいいなと思うんです。その流れの中で、岩本さんの経験や知識を聞いてみたいという方はたくさんいらっしゃると思うのですが。

藤代:そうですよね。岩本さんや代表スタッフの方から話を聞く機会は、今は指導者養成講習会のときしかないのかな?

鈴木:そうですね。講習会を受けると「アイスホッケコーチ 1」という資格を取れますが、その上がまだなくて。本格的に学びたい人はライセンス制度がある海外に行くこともあります。プロコーチとして生計を立てている日本人の方はほんのわずかです。アイスホッケー専門の指導者講習会はまだまだ少ないんじゃないでしょうか。

アイスホッケーのスキルはもちろんですが、私の場合、子どもたちとどう接したらいいんだろう?どう声をかけたらいいんだろう?という悩みを抱えて、たどり着いたのがしつもんメンタルトレーニングだったんです。というのも、私は感覚派のプレーヤーで(苦笑)。例えばシュートの仕方も、試合に対する姿勢なども、言語化するより背中を見てやってっていう感じだったので、コーチとして、それも小学生の低学年と関わるようになって本当に悩みました。

経験や知識はある程度ありますが、それを子どもたちに伝えるとなると、伝え方を工夫しないといけない。長く現役選手をしてきても、教えるとなると全く別物。すぐに指導ができるわけじゃないなとひしひし感じました。「教えずに、しつもんを活用して子どもたちの良さを引き出す」というしつもんメンタルトレーニングの考え方には本当に救われましたし、違う競技の指導者の方とつながりを持てたのも新鮮でした。

いかに選手自身が考える場を作れるか

 

鈴木:ひとつお聞きしてもいいですか?率直に、「しつもんメンタルトレーニング」を知ったとき、どのような感想を持ったのでしょうか?

岩本:僕もこれまで感覚派でやってきました(笑)。どう伝えたらいいかとか、話し方の勉強をしてこなかった。自分の感覚で、自分の思いを伝えてただけ。今はね、選手がどう思っているのか、選手の考えを聞こうという気持ちになりました。今、代表スタッフがしていることは、いかに選手自身が考える場を作るかということ。選手自らが考えて、選手から出た質問に対して答えていくようになりました。

前までは、「しつもん」を使って選手が考えることよりも、自分の思いをただ届けたいと思ってやっていた。初めて藤代さんから「しつもんの大切さ」を学んで、「これは使っていかなきゃいけないな」と思いました。今までそこに着目していなかったかもしれないですね。教える側としてはやっぱり「教えよう」としてしまって、「なんでわかんないだよ!」って思っちゃう。ほとんどのコーチがそうだと思うのです。

 

ミスをカバーしあうプレーが大事

 

岩本:特にアイスホッケーはパスミスだったりハンドリングミスだったり、間違いのある、いわば失敗が多いスポーツです。例えば体操競技のように、美しさを競って満点を目指すものではありません。相手の動きによって、自分たちがどう動いたらいいか、瞬時に判断しなければならない。ミスしないようにと思っていても、100%完璧なプレーなんてそうそうありません。

間違ったプレーという表現自体もおかしいかもしれない。間違ってもいいよ、ミスしてもいいよと今は言っている。もちろんミスは少ない方がいい。でも、ミスしたからといって萎縮してほしくないし、誰かがミスをしたら他の選手たちがそれに気づいて、カバーして、修正すればいい。そうすればミスじゃなくなる。そういうホッケーをしないと、世界では勝てないんじゃないかなと思ってるんです。どうしてもね、日本では型にはめようとする指導者がまだまだ多い。そんな気がしています。

(後半へ続く)

 

11月7日にアイスホッケー男子日本代表・岩本監督をお招きしトークイベントを開催します!
ぜひ、一緒に学びませんか?